「いててててて」




なんだかんだで外見も大事




海から帰って来たのも束の間、シャワーを浴びると言い風呂場に入って来た銀さんは悲鳴を上げていた。

「なんで日焼け止め塗らなかったの…」
「塗ったよ!…腕には」
「一番焼けるの肩だからね?」
「もっと早く言ってくれよぉ」
「さすがにそのくらい分かってるかと…」
女の子の肌はデリケートだと言うのに、銀さんは日焼け止めを適当に塗ったらしく、首から肩にかけて真っ赤になり痛々しいほど日焼けしてしまっていた。

「ギャーーー!!名前ちゃん!優しくして!優しく塗ってぇぇ」
「仕方ないでしょ、我慢しなさい」
私は近くの薬局に行き、日焼けの炎症を少しでも和らげようと日焼け後用の冷却ジェルを買って来てあげ、塗ってあげていた。

「うう…」
「泣かないの、男の子でしょ」
「今は女の子です…」
「あ、そっか」
ソファの下に座る銀さんを跨ぐようにして座る私は、その細身の背中にジェルを丁寧に、そして出来るだけ痛くないようにと優しく塗った。

「女の子ならもっと体労らないとね」
「…なぁ」
「んー?」
ジェルを塗っていた手を銀さんの細い手に掴まれた。
見上げるように上目遣いで、まるで私を睨むように真っ直ぐとした視線で射抜かれると、例え目の前の銀さんが女の子であってもときめいてしまうのは性だろうか。

「もし俺がこの体のままだったら、お前…どうする?」
「どうするって?」
「色々と困んだろ」
「困るって…何が?」
「何がって…ホラ、あれだ、世間体とかだな、周りの目とか諸々」
「え、銀さんってそういうの気にする人だっけ?」
「俺の話じゃなくてだな」
「別にいいよ」
「なんかそれ、投げやりじゃね?」

まさか銀さんにそんな質問をされるとは思わなかった。
この銀さんが、言わせたい奴にゃ勝手に言わせとけ精神の坂田銀時が。
まさかの世間体を気にするだなんて意外すぎて内心結構驚いてしまった。


「高杉のヤロー、マジで恨むわ」
「やっちゃったもんは仕方ないよ」
「そりゃそうだけど…俺の夢が砕け散ったわ」
「夢?」
「来年あたりガキこしらえようかと計画してたのによー」
「そりゃ残念だったね」
「まあ、この先お前と二人でずっと居るのも悪かねーか」
私の太ももに頬を擦り付けながら銀さんはその可愛らしい顔に花を咲かせるように微笑んだ。

「そうだよ、新八くんや神楽ちゃん、定春も居るんだし」
「だな、でけぇガキが二人もいるなら充分か」
そう言って銀さんは立ち上がり、私の頬を包み込んで唇を落としてくれる。
まだ慣れない銀子さんとのその行為も、きっとこれから慣れていってしまうんだろう。

外見は女の子でも、中身は銀さんのままだ。
何も変わらないと言えば嘘になってしまうけれど、きっとこれからまた銀子さんとの生活で私はこの人を愛していけるのだろうと思えた。

結論から言えば、銀さんの存在を愛している。
銀さんと言う存在が愛おしい。
それなら姿形を変えようとも、きっとまた再び愛せるだろう。
そんな変な確信が私にはもう芽生えていた。
「銀さん、大好きだからね」


そんな心を込めた一世一代の決意とも取れる熱い告白も虚しく、朝起きると銀さんは呆気なく男の姿に戻っていた。

「うわ、銀さん戻ってる…!」
「あ、ほんとだラッキー」
朝一、おはようの挨拶より先にそう言った私は何故か胸が苦しくなった。
やはり決意したとは言え、この姿の銀さんを愛しているんだと強く思ったからだ。
この体に、この逞しい腕に包まれ抱かれたかったのだと胸の奥の方が締め付けられる感覚を感じた。

「銀さんっ…!」
「ちょ、名前ちゃん!昨日あんなに頑張ったのに朝からまた第一ラウンド頑張っちゃう系?!」
「…ダメ?」
「いえ、大歓迎ですっ!!」

この日、私は生まれて初めて仕事をズル休みしたのだった。






-end-


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萌黄は夏とともにこれで終了となります。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。
また次回のシリーズもお付き合いいただけると嬉しいです。

読んでいただきありがとうございました。


2014.8.21
西島



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