こんな日に限ってってのはよくあることで。




二度目の誕生日も君を想う




「銀ちゃんおめでとアルー」
「おめでとうございます銀さん!」
「…」
「…機嫌直してくださいよ、仕方ないじゃないですか名前さんお仕事なんですから」
「そーネそーネ、だいたい銀ちゃんの誕生日が今年は平日ってのがいけないネ、なんで十月十日に生まれちまったアルか、十一日だったら土曜だったのにナ!名前泊りに来てくれたのにナ!残念アル!」
「ちょ、神楽ちゃん…っ!と、とにかく!仕事が終わったら名前さん合流するって言ってましたし間に合いますよ!一足先に乾杯しましょうよ!ね、銀さん」
「……」
「新八ぃ、銀ちゃん完全にスネてるネ」



「うわ、ヤバイ完全に遅刻だ」
急遽入った仕事が終わり、こんな日に限っての残業。
いや、残業の元凶である総悟は完全に今日が銀さんの誕生日だと知っていて予定をわざと狂わせたところがある。
確信犯の犯行だ。
でもそれもきっと言い訳にはならない。
こんな大事な日に銀さんのそばに居られないのがとても悔やまれる。

真選組屯所を急いで出る最中、時計をチラリと見ると時刻は21時半を過ぎたところだった。
あと二時間半も経てば銀さんの誕生日である今日が終わってしまうと思うと、とても罪悪感を感じる。
なんでよりによって今日なんだ。と色々なものに文句の一つでも言いたくなってくる。

小走りでいつもの土手を歩く。
早く、早く、あの人の元へ。
早くおめでとうを言いたいのに。

十月の大きな月。
去年もこんな月を銀さんと一緒に眺めていた。
あの時はまだ付き合いたてだったなあ、と思うと付き合い始めて一年経つのかと新たな発見をしてしまう。
「一年記念めっちゃスルーしてるし…」
私は近すぎる程の月に見惚れて、いつの間にか足を止めていた。

「今更、月に帰っちゃうとか言うなよなー」
ジャリ、とブーツが砂を踏む音と共に聞き慣れた心地良い低音の声。
「…銀さん」
「お前の上司共に文句の一言でも言ってやろうかと思ったら、本人こんなとこで道草くってんだもんなー」
「ちょっと月見てただけ」
「今日はお月見じゃねーだろ、もっと大事な行事があんだろ」
「そうだったね、遅くなったけど…」
「ストーップ!!」
「え、なんで」
「お祝いのメッセージはお布団の中でゆっくりお願いします」
「……」
「いいだろ!ここ最近おあずけ食らってたんだから!!今日ぐらい主役のこの銀さんに好き放題やらせてあげようよ!」

こんな綺麗な月が出ている夜なのに、相変わらず銀さんは下品な話しかしない。
一年前もこんな感じだったな、と思い出すと少し笑えてしまった。
「なんで笑ってんの名前ちゃん」
肩を並べて万事屋へ向かう。
銀さんは軽く私の肩を抱き、寄り添うように歩いた。

「えー、内緒」
「なんだよ、お布団の中でどんなプレイするか想像しちゃったとか?」
「なんでそーゆー話しか出来ないかな?!」
「いいだろ!お前泊りにくんの久々なんだからさ!銀さんハッスルしちゃってもいいだろ?!」
「知らない」

肩をグッと引き寄せられ、少し肌寒いこの十月の夜も銀さんのおかげで温かく過ごせそうだと思うと幸せが胸から溢れ出そうな気持ちになった。

「名前…」
「んー?」
「この一年、色々あったけど…なんつーか、あんがとな」
「……うん、こちらこそ」
銀さんが急にしおらしいことを言って来たので、何と無く照れ臭くなって下を向いてしまう。

一年を振り返ると確かに色々あった。けれどいつも銀さんは優しくて、その広い心で私を受け入れてくれていた。
ここに来てから銀さんには感謝してもしきれないことばかりだった。
そしてこれからもきっと銀さんに世話になりっぱなしになるんだと思う。

きっと銀さんは“世話なんかした覚えねーよ”だなんて言って何でもないような顔をするんだろうけど。


「俺、今日は子作り頑張っちゃおー」
「っ……ぎ、銀さんそんなに子ども欲しいの?そもそも、子ども好きだったっけ?」
「お前とのガキだったら大歓迎だぜ俺は」
「なんか想像つかないなー…、銀さんがお父さんとか」
「んだよ、甲斐性なしとか言いてーのか」
「まあそれもあるけど、銀さんはお父さんって言うより子どもと一緒になって遊んだりケンカしたりしてそうだなーって」
「おま、冒頭にさりげなく甲斐性なしって認めんなよ」

最近、銀さんはキャラに似合わず子ども子どもと言うようになった。
オスとしての繁殖能力が急に芽生えたのか、まさか死期でも近付いてるとか?!
など色々思いは巡ったものの、銀さんは素直に家族が欲しいのだと先日わりと真面目な顔で言われてしまった。

私も年齢的に考えない訳でもない。
もし、万事屋にもうひとり可愛いメンバーが増えたならきっと皆喜んでくれるだろう。
そんなことを少しずつ考えていると、なんだかとても現実的になってきたのだった。

「ガキひとりくらい何とかならぁ」
「共働きだね」
「いやいやそこは銀さん頑張るけどさー、その、あれだ、ヤバイ時は名前ちゃん助けてね?」
「はいはい」
「そんときゃ下のババァとかに任せときゃいいしな、預けたら絶対喜ぶぞ」
「お登勢さんとかすごく頼っちゃいそう」
「そのうち自分の孫だとか言いふらしかねないぞアイツ」
そう言って嬉しそうに笑う銀さんがなんだかちょっとすでにお父さんの表情をしていた。

「私の職場にも見てくれそうな人たくさんいるしなぁ、近藤さんとか子ども好きみたいだし絶対喜びそう」
「アイツはやめろ、ゴリラがうつる」
「じゃあ土方さん?」
「あんなニコチンくせー野郎に子ども抱かせてたまるかっつーんだよ!害すぎる!」
「それじゃ、総…」
「お前それ一番危険人物って分かってんだろ…」
「うん…」

総悟に子どもを預けた日にはきっと変なおもちゃを握らされたり、後に使ってはいけないような言葉を教え込まれたりしそうなので自分の中で即却下した。
何より一瞬考えただけでぞっとしてしまった。

「でも…私はもうちょっと銀さんと二人で居たい気持ちのが大きいんだよね」
「……」
「ほら、まだ一年だしさ」
私なりに色々銀さんとの将来を考えている。
この先ずっと一緒に居たいと思う相手なだけにまずは現実的に貯金なのだ。
先立つ物がなければ将来だって計画しても台無しなのだから。

もう少し二人で居たいと言うのはもちろん本音ではあるけど、半分はもう少し土台をしっかりしておきたいと言う気持ちもあった。
女はどうしてこうも現実的なんだと、男の人から見たらきっとそう思われるのは確実だろう。

そしてそれが少し伝わっていたのか、銀さんも最近は仕事も真面目にやっているみたいでそれなりに忙しくしているようだった。
私もできるならあと一年、猶予と言うものが欲しいと思っていた。

こちらに来て一年半。まだ一年半だ。
その間に環境も色々と変わり、やっと今落ち着いたところで私としてはもう少しだけこの生活をしていたいと思っていた。

「ずいぶん可愛いこと言ってくれるねぇ、名前ちゃん」
「そんなこと…ないよ」
もちろん、これは私の自分勝手な考えにすぎない。
私が不安だから今ではないと銀さんに言っているだけなのだ。

もうちょっとこの居心地の良い生活をしていたいと言う、単なる私の身勝手なのだ。
銀さんに可愛いと言われる資格などない。

「ま、子どもは授かりもんだしな」
“深く考えないでおこうぜ”と付け足され、銀さんはやっぱり何でもお見通しなんだなぁ、とつくづく思い知らされる。
この大きな懐に甘えてしまってもいいのかたまに不安になってしまう自分がいる。
こんなに幸せでいいのかと思ってしまう。

「あんまり私を甘やかさないでね、銀さん」
「何言ってんの、名前ちゃん甘やかすのが俺の生き甲斐なんだからさぁ」
更に肩を強く抱かれて寄り添うと言うより半ば抱きしめられている状態になる。

「名前…」
足を止めた私を改めて抱きしめた銀さんはどことなく切なそうだった。
されるがまま、私はそのたくましい腕に身を任せ首筋あたりに顔を埋めた。

銀さんの匂いに着物越しでも伝わる筋肉の質。
穏やかな気持ちの中にも、この人がいなければ生きていけないとさえ思える程の熱い気持ちがあった。

「名前…早く俺の嫁さんになってくれよ」
ボソリと言ったその低い声は秋の風に吹かれて、もう少しで聞き逃してしまいそうになった。
ドクリドクリと心臓が脈打つ。
付き合う前の時みたいに。あの頃みたいな感覚だった。

「っ…」
「今年の誕生日プレゼントは、それでいいわ」
「それでって…言われても…」
戸籍も何もない。そんな私に結婚なんて文字はとうてい存在しない。
それは銀さんだって百も承知だろうに。

「紙切れどうこう言う問題じゃなくて、形だけでもいいんだよ」
「銀、さん…」
「お前のこと、“俺の嫁さん”って言いてーの」

この人が愛おしくてたまらない。
この世界に来たのも、きっとこの人と会うためだったんだろうと思うようになった。
私はきっとこの人のために生きてこの人のために死ぬんだろう。
そう思えるだけで幸せだった。


「あー、こんなトコでイチャついてるバカップル発見アルー」
「ちょっ、神楽ちゃん邪魔しちゃ悪いよ!」
「銀ちゃんが名前を襲ってないか心配だったから迎えに来たアルよ!」
月明かりに照らされて神楽ちゃんと新八くん二人がこちらに歩いて来る。

「神楽ちゃん、新八くん」
「すみません、神楽ちゃんがどうしても名前さん迎えに行くって言うもんで…」
「バカヤロー新八ぃ!オマエも名前が心配だって言ってたダロ!自分だけ抜け駆けすんなよこの卑怯ダメガネ!」
「心配とは言ったけど、銀さんが迎えに行ったから別にその後は何も言ってないし!単に神楽ちゃんのワガママに付き合ってるだけだから!」
「別について来いなんて言ってないネ!オマエが勝手について来たんダローがこのメガネ!」
「メガネメガネ言うな!」
「お前らギャーギャーうっせーんだよ!!とっとと帰んぞ!」
銀さんのその鶴の一声でお子様組二人は静かになり、今度は四人で静かな土手を歩き出した。


「今日はすごく月が大きいですね」
「ほんと、綺麗だね」
「血が騒ぐアル」
「やめろ、お前が言うとシャレになんねーから」
「銀ちゃんは月見て狼に変身するアルか」
「そーそー、今夜は銀さん狼に変身して名前ちゃん食べちゃうからね、お前は気を遣って志村家に泊りに行きなさい」
「嫌アル、今日は私が名前と一緒に寝るネ」
「新八、コイツ引きずってでも連れてけ」
「無理ですよ!そんな事したら最終的にこっちが引きずり回されますよ!」

「今日は俺が主役なんだよ!分かるよな?!頼むよ神楽ちゃん!酢昆布三つ買ってやるから!」
「酢昆布より名前のが大事ネ!だいたい銀ちゃん去年も同じこと言ってたアル!しかも去年は酢昆布五つだったアル!減ってるネ!」
「ほんとオメーはロクなことしか覚えてねーな!?分かった分かった!んじゃ五つ出すから!な?!」
「名前、今日は一緒にお風呂も入るネ!」
「うん、いいよ、神楽ちゃんと一緒なの久しぶりだね」
「シカトかよ!?しかも、名前ちゃん気軽にオッケーしてるし!!」
「銀さん、今年は諦めた方が良さそうですね…」

がっくり肩を落とす銀さんには悪いとは思ったけれど、今年は皆で銀さんのお祝いをしたいと思った。
「銀さん、お誕生日おめでとう」
私のその言葉に続いて新八くんや神楽ちゃんもおめでとう、と続ける。

当の銀さんは照れて、ぶっきらぼうに「おう」とだけ言って少し早歩きで先に進んでしまった。
それを後ろから子供二人組がからかっているのを見ながら、私はあと二時間とちょっとしかないこの日に感謝した。

銀さん、生まれて来てくれてありがとう。


「名前ー、置いてくぞー」
「待ってよー」
そして私はまた賑やかな輪の中に入っていく。
楽しい毎日をありがとう。
幸せにしてくれてありがとう。




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ハッピーバースデー銀さん!

銀さんの誕生日を今年も祝えて幸せです。
銀さんに出会えて幸せです。
いつまでも素敵な銀さんでいてください!


2014.10.10
共鳴ブルー 西島




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