日常と波乱は紙一重だと思うのです。




眠れない夜は明日のことなんか考えるな(前編)




今日はたくさん色んなことがあった。
私は仕事が休みだったので、朝一で万事屋に出向き顔を出すとそこには桂さんの姿。
彼は相変わらず美しい顔と黒く長い美しい髪で、私はそんな姿に一瞬見とれてしまう。

お久しぶりですね、なんて言いながら持ってきた真選組饅頭を出すと、桂さんはとんでもない目付きで私のことを見た。
確かに世間から追われる身である桂さんの立場から言えば、私は真選組の者なので敵意むき出しにされても仕方ない。

しかし私はただの女中な訳で。
銀さんの友達である桂さんをどうこうするつもりもなければ、それを真選組の誰かに伝えるなんて事もしない。
その有無を伝えると桂さんは早速真選組饅頭を口いっぱいに頬張っていた。

そんな桂さんを見て少し微笑ましく思っていると、「そう言えば祝言はいつなんだ?」と真顔で直球なすぎる質問をされ、返答に困ってしまう。
銀さんはそれに対して「そのうちするからたんまり祝儀の金用意しとけよ」と、たかりのような事を言っていた。
それを聞かないフリをして桂さんは饅頭を半分以上たいらげると、さっさと帰って行ってしまった。

そして次に現れたのはお妙さんと九兵衛さん。
銀さんの大好きなケーキをいくつか手土産に買ってきてくれた二人は、神楽ちゃんを連れてデパートへ買い物に行く約束をしていたと言うので神楽ちゃんを迎えに来たらしい。

私も一緒にどうかと誘われたものの、銀さんがせっかくの休みの日くらい二人で過ごさせてくれ!とお妙さんに懇願と言うか、嘆きにも似た主張をして私は引き続き万事屋でお留守番することになった。
一方神楽ちゃんはお小遣いを握って嬉しそうにお妙さんたちと出かけて行った。


その後に来たのは、珍しいお客さん。
なんやかんやで実は初対面の月詠さんが姿を現したのだ。
手土産を持って現れた彼女は私を見るなり「これが噂の銀時の奥方か!」と顔を赤らめたので私までなんだか照れて赤くなっていると、銀さんが横から「お前ら何か気持ちわりぃんですけど」と軽く罵ってきた。

月詠さんは、祝いにまた宴会でもしよう、と言うと部屋に上がることなく帰って行ってしまう。
その後ろ姿を銀さんと二人で見送った後で、私が「今度私もお土産持っていきたいから吉原連れてってね」と言うと銀さんは少し困ったように笑う。
そして頭をガシガシ掻きながら、「お前にゃ敵わねぇわ」と一言放ち居間に戻って行ってしまった。

そんな沢山の来客に追われているとあっという間に昼を過ぎていて、銀さんとお昼はファミレスで済ませようとかぶき町を歩きはじめた。
すると、ここでもバッタリ出くわしたのは長谷川さん。
長谷川さんは相変わらずのホームレ…マダオ生活らしく、いつもの出で立ちでパチンコ屋の前をウロウロしていた。

銀さんと私を見るなり、「無職が世帯持つと色々大変だぞ」と何かを悟ったような遠い目をしていて、また別居中の奥さんと何かあったのかなぁなんて思わせる発言をしていた。
それに対し銀さんは「無職じゃねーよ!」と言い返して長谷川さんのサングラスを奪い取ると遠くに投げて意地悪をしていた。

こんな、まるで小学生の男子のような二人が見ていていつも面白いと思う。
毎回顔を合わせる度に言いたいこと言って罵り合いして、それでも肩を並べてお酒を飲んでいる。
そんな二人が少し羨ましいとも思えた。

そんな長谷川さんとも別れ、いつものファミレスにてお昼ご飯を食べた後も少しかぶき町をブラブラする。
夕方近くに万事屋に戻ると店の前にはお登勢さんとたまが外の掃除の最中で、私たちに気付くと声を掛けてくれる。

たまさんが挨拶をしてくれ、お登勢さんには年末は仕事は忙しいのかと聞かれ、私はそうでもないと答えると、年末は忘年会で店が大忙しらしいので手伝って欲しい、とのことだった。

しかし銀さんは「そんなの許しませーん!」と少々お怒りで、「アンタはさっさと今年中にたまってるツケ払いな」とお登勢さんの一言にそのまま私の手を引いて急いで万事屋に逃亡をはかった。



そして夜。
寒い夜とは裏腹に、熱い夜を布団の中で過ごした後。
銀さんは相変わらず即寝。
それに寄り添うようにピタリとくっついてお互いの熱で温かく眠れる…はずだった。

「ね、眠れないっ…!」
隣で寝息をたてて気持ち良さそうに寝ている銀さんがこんな時はとても恨めしく感じる。
少しウトウトしたものの、忘年会シーズン到来でかぶき町はいつもより賑やかで、外で酔っ払いの声が聞こえそれに反応してしまい更に目が冴えてしまった。

その後どんだけ目を瞑って無になっても、どれだけ羊を数えても、私が銀さんのように心地よい夢の中に落ちることはなかった。
そして十二月初めの本格的な寒さの中、私は何を思ったか外に出て少し夜風に当たろうとする。

「さむっ!なにこの寒さ!?」
しかし夜風どころか夜は極寒だった。
眠らない街、かぶき町でも真冬はやってくる。
つい最近までポカポカ陽気だったので、そんな事も頭から抜けていた私は外に出た瞬間かなりの後悔をした。

「コンビニでも寄ってすぐ帰ろう…」
神楽ちゃんには肉まん、銀さんにはスイーツ、新八くんにも何か買っておこう。と思い、万事屋から一番近いコンビニに向かい足を早めた。



「こんな夜中に女が一人で歩いてるなんてこの街は本当に物騒だなぁ…これって殺してくださいって言ってるようなもんだよね」

高杉さんとは違う。
あの時は嫌な予感が、そして何らかの気配を感じ取った。
だけど、今回は違う。
それはとても自然に、とても当たり前のようにそこに居た。

振り返るとそこにはかぶき町の派手なネオンに負けず劣らずの目立つ髪色。
その髪は普段から見慣れている色…朱髪で。
綺麗に三つ編みにされた長い髪が夜風によって揺れていた。
この見慣れた髪の色と瞳の色だからだろうか、こんな恐ろしい人の前でもどこか知り合いのように感じてしまうのは。

「神、威…」

私がそう名前を呼べば、彼は怪しくにやりと笑った。




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