「状況が違えば違ったルートを行く確率のが高ェと思うんでさァ、俺は」




ルート悩んでるとだいたい辿り着くバッドエンド




「そんな事いちいち言いに来たのかよお前は」
「旦那こそ授業参観と間違えてやせんか?」
「バカヤロー!初日くらい名前の付き添いしたっていいだろ!色々と心配なんだよ!」
「色々…ねぇ」

銀さんと総悟がまた何か揉めているのが麩の向こうで聞こえる。が、今はそれどころではない。
私は今日から真選組の事務方として復帰することになった。
銀さんには反対されたけれど、何とか押し通して今ここにいるのだ。

「また宜しくお願いします、近藤さん、土方さん」
「よく戻ってくれたな名前ちゃん、歓迎するよ」
近藤さんはにこやかな顔をして私を迎えてくれた。
その隣で土方さんは眉間にシワを寄せてこちらを見ていて、なんだかそれが恐くて目を合わせられなかった。

「トシ!そんな顔してたら名前ちゃんまた怖がっちゃうから!」
「え、ああ…すまねぇ」
部が悪そうな土方さんは今度は少し困ったような顔をした。
“また怖がる”と言うのは、入院中私が土方さんに対して少しビビっていたからだと思う。

意識を取り戻して目を覚まし、病院のベッドの上で初めて目にしたのは土方さんだった。
何もかもを黒で覆ったその人は、目を合わせた直後にすごい勢いでこちらに駆け寄り私の名前を呼んでくれた。
もちろん誰だか分からなくて。
でも、それでもその黒で覆われた人が、土方さんがずいぶん親しい人なのではないかと思ったのは私の直感だった。

あれから一週間と少し。
入院中も頻繁に様子を見に来ては手土産を置いていってくれた。
病院にいた時も特に立ち入った話はせず、最終的には総悟と喧嘩をして帰っていく。
不器用なりに土方さんはきっと優しい人なんだと、私はうっすらと感じ始めていた。
はずだけど、やはり本人を目の前にするとどうも反射的に緊張してしまう。
記憶を失う前の私もこんな感じだったのだろうか。
よく毎日土方さんの補佐として隣にいれたな、と自分の事ながら感心してしまうくらいだ。


「選択肢ひとつ変えるとすぐ別のルート行っちまうんだよなァ」
「は?なに?さっきから君は何のゲームの話をしているんだね総一郎君、銀さん全く分かんねーんだけどぉ」
「“色々心配”、なんでしょ旦那ァ?その心配事が現実になっちまわないといいですねィ」
「心配事?何それ?俺そんなこと言ったっけ?銀さん全く分かんねーんだけどぉ!」
「んじゃわかり易く解説してやりますよ、今や名前は男子校に転校してきたばかりの女主人公、言わばまっさらな初期段階…とき○モの如く初期段階は相手選びたい放題、ロックオンし放題って訳なんでさァ、どいつをロックオンするかは名前次第ってねェ」
「はぁぁ?!と○メモなんてぎぎぎ銀さん全く分かんねーんだけどぉぉぉ!!」
「動揺してんのバレバレですぜ」
「どど動揺なんかしてませーんっ!!全然してまっせーーーんっ!!」
「うるっせーんだよお前らは!さっきからなんの話してんだよ?!しょーもない話が丸聞こえなんだよっ!」

土方さんはふすまを蹴り倒すと、そこにもれなく下敷きになる銀さんと総悟。
這い出て来た銀さんは明らかに土方さんを邪険にした目で睨んでいた。
「職場にまでついて来るなんざ、ストーカーもいいとこだな万事屋ぁ」
「んだとこのチンビラ警官…お前んとこのゴリラと一緒にすんじゃねーよ、こちとらちゃんと税金納めてる人間様だぞコノヤロー」
「万年金欠の家賃滞納してるような奴が税金納めてるだぁ?よく言うぜ、偉そうなのも大概にしやがれ」
「はぁぁ?!偉そうなのはテメーら税金泥棒だろ!うちの名前ちゃんをこんな目に合わせやがって!一生慰謝料請求してやっからな!」
「銀さん!私なら大丈夫ですから…!」
どんどんヒートアップしていく銀さんを見ているとなんだかいたたまれなくなってくる。
かと言って一応は心配して付き添ってくれているのだから、邪険にも出来ずになんとなく銀さんの持て余し感が半端ない状態だ。

「ほらな、さっさと保護者は帰れってよ?だいたい一生慰謝料請求する権利はテメェにゃねーよ」
「ああ?!」
「名前の記憶がずっと戻らないならうちで面倒みるつもりだからな、慰謝料云々よりコイツの生活の保証くらいうちが一生見てやるよ」
「はぁぁぁ?!何言っちゃってんのこのマヨネーズは!マヨ摂取しすぎて脳みそまでマヨネーズが侵食しちまったのか?頭大丈夫ですか精神科でも紹介しましょうか!?」
「いちいちムカつく言い方すんじゃねーよ!」
「土方さん、アンタも結局は俺と考え変わんねェじゃねーですか」
「お前と一緒にすんな!俺は真選組で面倒見るって意味で言ってんだよ!お前は自分の物にするって意味だろ!それと一緒にすんな胸くそ悪ぃ!」
「アンタもあわよくば名前を…なんて思ってんでしょ」
「おぃぃぃ!!いつの間に!?おまっ、今まで一番名前に興味ねーって感じ出しといてこのおいしい状況にのっかっちまうやつかよ!!?外道だな!クズだな!マヨ以下だな!」
「のっかってねーよ!んでもって一番クズのお前にクズ呼ばわりされる筋合いはねーんだよ!」

だ、だめだ…
更に三人がヒートアップしてきている。
果たしてこれを止められる人はいるのだろうか、と私はただハラハラしながら三人のやりとりを傍観していた。
「まあとにかく、だ」
私と一緒に座って傍観していた近藤さんが、やっと口を開いた。

「とうぶんは働きに来て貰って、それでも記憶が戻らないならその時また違う方法を考えよう、今は先のことを言ってても仕方ないからな」
その寛大な考えと眩しい程の笑顔に、先程まで言い合いをしていた三人が渋々ながら解散していく。

「んじゃ名前ちゃん、五時に迎えに来っから…」
「あ、はい!宜しくお願いします!」
銀さんは半ば仕方無しで帰る決断をしたようだった。
「お前ら名前にぜってー残業させんなよ!?あと、コキ使うんじゃねーぞ!」
「任せろ万事屋、そこは俺がちゃんと監督しとくから」
「ゴリラ監督からストーカーゴリラに変わり身すんじゃねーぞ!」
「ばっ!俺はお妙さん一筋だからね!!?そういうの新八くんに言わないでよ!?」
銀さんがはいはい、と言いながら廊下に出ていくとその後をすかさず総悟が追っていく。

「俺ァちょっとそこまで旦那をお送りしてきまさァ」
「総悟テメェ、そのままサボりに行く気だろ」
「まさかァ、今日は名前の出勤初日ですぜ?ちゃんと戻って面倒見まさァ」
面倒臭そうにそう言って手をひらひらした総悟は銀さんと共に姿を消した。

土方さんは私に仕事について直々に教えてくれる事になった。
“着いて来い”とそれだけ土方さんに言われ、言われるがまま私は後ろをついて歩いた。

これから始まる新しい生活に不安はあったけど、周りの人が私を支えてくれる。
だから不思議と違和感はなかった。



「知ってやすかィ旦那ァ」
「あ?」
「ひよこってのは生まれて初めて目にしたものを親と思うように出来てるんですぜ」
「…だからなんだよ」
「その現象が少なからず人間にもあるとしたなら、名前は一体誰を慕いやすかね」
「なんだよ、それが自分だって自慢でもしたんいんですかコノヤロー、残念ながら人間にそんな本能はねーよ」
「例えそんな本能がなくても、不安の中で目が覚めて一番最初に見た男が心底自分を心配してくれていたらどう思いやすか」
「べっつにー、誰だコイツ?くらいだろ」

「じゃあ結野アナが手を握っててくれたとしたら」
「誰だこの可愛い子!?ってなるわな…いや、名前のが可愛いけどな!?」
「まぁそれと同じってことでさァ」
「はぁ?名前はお前みたいなベビーフェイスの少年にゃ興味ねーだろ」
「旦那ァ、俺は一言も“俺”だなんて言ってやせんぜ?」
「はい?」

「ひよこはマヨネーズを親だと思ってどこまでもついて行っちまうかもしれやせんねェ」
「……おいおいおいおい、怖い事言うなよ」



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