「ちょっと銀さん、飲み過ぎじゃ…」




酔っ払いの本音は本気の本音




「アァ?!マダオ風情がこの俺に指図すんのかぁ?!そんなにそのグラサン割られてーのか!お望み通り木っ端微塵にしてやろうか!」
「いやいやいや!銀さんが呼んだんでしょ?!話聞いてくれって言うから俺来たのに!何この仕打ち!?酷くない!?」

「そうだよ、銀時アンタちょっと飲み過ぎだよ、いい加減にしときな」
「うっせーんだよババァ!お前がなんでここに居るんだよ!帰れコノヤロー!」
「ここがアタシの店だからだよ!お前が帰りやがれこの酔っ払い!」
「んだとクソババァ!客に向かってなんだその言い草!」
「はあ?!誰が客だって?!それなら溜まってるツケ今すぐ全部払って貰おうじゃないのさ!ほら!金出しな!」
「あーあー!聞こえねー!汚ねー妖怪の声なんて全然聞こえねー!」
「誰が妖怪だってぇ!?」
「おいキャサリン!酒持って来い!」
「金ノネェヤツニ出ス酒ナンカ置イテネーヨ」
「ぶっ飛ばすぞこのブス!」

「しかし銀さん荒れすぎだろ…名前ちゃんとなんかあったの?」
「なななななんもねーよ!なんの問題もねーよ!マダオが一丁前に人の生活に口出してんじゃねーし!」
「動揺しすぎだし…」
「まったく世話が焼けるねぇ…それで、ケンカの原因は何なんだい?」
「ケンカなんかしてねーし!……ただ名前を見てると居ても立っても居られなくなるんだよおぉぉ!たまらなくなってスキンシップするとドン引かれるし!まだ同棲二日目なのに!これからどうしたらいいだよ!?このままじゃ俺いつか色んなとこが爆発しそうなんですけど!?」

「しょーもない話だね」
「しょーもないとか言うんじゃねー!こっちは結構ガチで悩んでんだよ!何とかして前みたいに名前触りたいんだよおぉぉ」
「銀さん…セクハラするためにそんな本気で悩むなよ…」
「グラサンには分かんねーんだよこのつらさが!だいたいセクハラってなんだよ!?俺と名前はもう夫婦も同然なんだからな!セクハラとかじゃねーし!」
「記憶がないんだから仕方ないよ、名前ちゃんからすれば知らない男に毎日ケツ触られてるみたいなもんだと思うよ俺は」
「俺が犯罪してるみたいな言い方すんなっ!」
「実際それに近いと思うけど…」
「まさか…だからあんなにドン引いてたっつーのか…」
「確実にアンタが悪いよ銀時」
「俺、このまま嫌われたらどうしよ…」
「泣くなよ銀さん」
「泣いてねーよ!もう涙も出ねーわ!」



「いってらっしゃいアル」
「いってきます!」
朝、玄関先までお見送りに来てくれるのは寝癖が付いたままの神楽ちゃん。
「名前は働き者アル、誰かさんも見習って欲しいくらいネ」
「誰かって誰だよ…」
「あ…銀さん、おはようございます」
「お前のことに決まってるアル、朝から酒臭いんだよマダオ弐号機」
「あんなグラサン初号機と一緒にすんな」

銀さんはあれから下にあるお登勢さんのお店で飲んでいたようで、帰ってきたのは日付が変わった頃だった。
ずいぶん飲んでいたみたいで、ソファにたどり着くとすぐに寝息を立てていた。

「送る」
そう一言だけ発した銀さんだったが、見るからに顔色が悪い。
二日酔いするタイプだって言ってたから、きっと昨日のお酒がまだ残っているのだろう。

「大丈夫ですよ、もう道も覚えたし」
「そーネそーネ、朝からそんな酒臭い奴と出勤したくないネ、キャバ嬢と間違われるネ」
「うるせー、寝癖付けてるお前に言われたかねーんだよ…うぷ」
「道端ゲロまみれにするつもりアルか」
「こんなもん歩いてりゃそのうちよくなるっつーの、行くぞ名前」

名前を呼ばれて心臓が跳ねる。
余計な負担がかかる朝はまだ三日目で、この生活は始まったばかりだ。
そんな私の気持ちなんか知らない銀さんは、ヨタヨタとしながら二日酔いの頭痛に響かぬようにと気を付けながら歩いていた。

途中銀さんの気分の悪そうな顔を見ていられなくて、コンビニに寄り二日酔いに効く薬を買って手渡した。
「なんか悪いな…逆に朝から気ぃ使わせたみたいで」
「ううん、銀さんにも息抜きは必要でしょ」
「俺は別に…仕事してるようで、まあ、してなくはないけど、毎日息抜きみたいなもんだし」
「あはは、それ自分で言っちゃうんだ」

いつも神楽ちゃんにマダオだのニートだのと罵られるとムキになって言い返す銀さんだけど、自虐ネタにして笑いを取ってしまうところが彼らしいと、ここ何日かで分かった。

「名前ちゃん、あのさ」
「アレェ、こんな時間にコンビニの前で油売っててもいいんですかィ」
最近やっと聞きなれた声の方に目をやると、そこにはやはり総悟がいて気だるそうにこちらに向かって歩いてきていた。

「おはよう、総悟」
「おー、って急がねェとお前遅刻ですぜェ」
「え!もうそんな時間?!」
「何だよ、おまわりさんがわざわざお迎えかぁ?」
「まさか、俺ァ旦那ほど過保護じゃねェんで、単にアイス買いに来ただけでさァ」
「じゃあ先に行くね、…と、そう言えば銀さんさっき何か言おうとしてなかった?」
「あー…今はいいわ、帰って来たらまた、な」
「そっか、じゃあいってきます!」
「おう、いってらっしゃい」

私は小走りで屯所に向かい、その日はギリギリセーフで間に合ったものの、土方さんに軽く体を心配してもらい、何だか少し罪悪感さえ感じていた。

「お前が迷ってんじゃねぇかって総悟の野郎迎えに行ったはずなんだが、行き違いか?」
「さっきコンビニの前で会いましたよ」
「一緒に来なかったのか」
「えーと…用があるって言ってました」
「アイツ朝礼出たくねぇから逃げやがったな…」

土方さんと総悟はあまり仲がよろしくないのか、いつもお互いいがみあっているような関係だ。
でもそれがなんだか兄弟のようで、見ていてハラハラするものではなかった。
きっと記憶を無くす前の私も、こんな感じで二人に接していたのではないかと思う程、それはごく自然な毎日だった。



「旦那ァ、名前が大変な時に夜な夜な飲みに行ってるなんてどうかと思いやすねェ」
「うっせーお前に何が分かんだよ」
「どうせひとつ屋根の下で寝るのが耐え難くて酒飲んで寝るしかねェって腹でしょ」
「……お前なんでそんな察しがいいわけ?エスパーなの?キミはエスパーなの?」
「俺なんか名前の部屋の隣で毎日寝てやしたけどねィ」
「そりゃお前が名前にそういう意味での興味がねーからだろ」

「まあ同じ布団に入って寝たこともありやしたが、変な気は残念ながら一切おきなかったですねィ」
「は?」
「マジで何もしてやせんよ、せいぜい寝返りうった時に手がケツに当たったくらいでさァ、不可抗力ですって」
「いやいやいや!そこじゃねーし!ケツのとこはだいぶ引っかかるけどぉ!なに?!同じ布団で寝たってどういうことぉぉ?!どういう状況?!どうしたらそうなったの?!いつの話?!」
「随分前の話でさァ」
「随分前でもだいぶ引っかかるんですけどぉぉぉ!!?」







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