「慣れねェなァ」




三年目の誕生日の扱いなんてそんなもの




あれから銀さんと土方さんは入れ替わったまま、三日が過ぎようとしていた。
「一週間もすりゃアレも慣れますかねィ」
「ど、どうだろうね…」
総悟は仕事をしている私の後ろで寝転がり、漫画をペラペラと読んでいて完全にサボりモードだ。

「そういうお前は三日間見た目は土方さんな旦那と過ごしたんだろィ、どうなんでェ実際のとこ」
「どうって、何が…」
後半ニヤついたのが分かる程の総悟の言い方に、私は振り向きもせずに事務仕事を続けた。

「何がってお前、曲がりなりにも真選組一の色男と呼ばれてる土方さんと一緒に暮らしてて何もねェとは言わせませんぜ」
「べっ別に土方さんと一緒に暮らしてる訳じゃないし!見た目が土方さんなだけであって!中身は銀さんなんだから銀さんなんだし!変な言い方しないでよ!」

確かに総悟の言う通り、例え中身は銀さんでも外見は土方さんだ。
正直な話、朝起きて毎日ビビリっぱなしだ。
何より見た目もさることながら、声だってあの独特なイケメン低音ボイスな訳で。

朝からあの魅力的な声で名前を呼ばれた日には、もう心臓がいくつあっても足りないくらいに動悸がヤバイ。
そんな私の反応が気に入らないのか、銀さんは入れ替わってからというもの、すこぶる機嫌が悪い。

一時は解禁された銀さんと布団を並べて寝ていた夜も、今やまたソファと寝室とで別室になってしまった。
銀さんが“この体でいる以上はお前に指一本触れない”、と断言したのだ。


「いっその事、コッチに居る見た目が旦那の土方さんと一緒になっちまったらどーですかィ」
「は?!何言ってんの!」
「見た目が旦那なら罪悪感はねェでしょ、しかも中身は一応まともに働いてる公務員だから美味しいとこ取りの一石二鳥でさァ」

そりゃもちろんプー太郎に近い銀さんより公務員である土方さんのが魅力的だ。
しかし私はそういうところで見ていないし、記憶を無くしてもまた銀さんを好きになったようにきっと彼に惚れてしまう性分なんだと思う。
だからそんな事、出来るわけがない。公務員は魅力的だけど。

「おい、名前」
「はっはい!」
銀さんの声で呼ばれるとそれもそれで体が反射的に反応する。
しかしその声と体は銀さんであっても、中身は土方さんだ。

「それが終わったらこれも頼む」
銀さん…の姿をした土方さんは、体が入れ替わってからというもの素っ気なくなった。
素っ気ないと言うより、それは避けられているようにも取れた。

「な、なんだよ」
「え?何がですか?」
「さっきからジロジロと…」
土方さんは一歩後ろに引いていた。それ程までに私から距離を取りたいらしい。
少し悲しくなったがどうやら私は一歩引かれるくらいに土方さんをジっと見つめてしまっていたようだ。

「あからさまに熱い視線送られたんじゃあ土方さんもたまったもんじゃねェですね」
「あ、熱い視線って…!」
私そんな視線送ってました?!無意識に送っちゃってました?!
だって中身が土方さんとは言え、隊服に身をまといキリッとした銀さんがテキパキと仕事をこなしていき、部下である私に指示を出す姿はとにかく格好良い。

いつも銀さんがこんな感じなら四六時中見てても飽きないだろうな。
だからつい見てしまうのは、女としての本能なので仕方ないと思います。あれ?作文?

「ただでさえここでも隊士共にジロジロと見られて気が休まらねぇってのに、これ以上俺の気を削がないでくれ…」
大きな溜息をついた土方さんは環境と言うか、自分の置かれた状況の変化に慣れるまでのストレスが半端ないようだ。
「ったく、あのジジィは一体いつ帰って来るんだよ…」

銀さんの姿をしたままで、そのヘビースモーカーは止むことなく煙を吹かす。
見ているこっちが銀さんの体を心配してしまう。
あんなに煙吸って大丈夫かな、とか慣れないマヨネーズ摂りすぎて激太りしたらどうしよう、とか。
そんな心配をヨソに、源外さんはそれからもなかなか帰って来なかった。



「銀ちゃん、お誕生日おめでとうアル…ってその体は銀ちゃんじゃないけど、コレって祝う意味あるネ?」
「俺だって好き好んでこの身体で生活してる訳じゃねーんだよ!ったく結局一週間経っちまったじゃねーか!ジジィどっかで死んでんじゃねーだろうな?!そうなった場合これどうすんだよ!?俺どうなっちまうんだよ!?」

銀さんの誕生祝いと言うことで今年もスナックお登勢で宴会をすることになった。
その席でもやはり銀さんの姿はなく…
体は土方さんで中身は銀さんという状況が続いていた。

「そこは源外さんの身の心配をしましょうよ…」
料理の数々をテーブルに運ぶ新八くんは、主役なのに機嫌の悪い銀さんを何とか宥めようとしながらも真っ当な発言をしていた。

「ところで、たまさんは?」
「たまならそのからくりじーさん探しに行ったよ」
お登勢さんが紫煙を吹かしながら溜息混じりにそう言うと、銀さんが反応した。

「さっすが!あいつはほんと頼りになるよなー!ポリ公は全然役立たずだしよー、やっぱたまが一番頼りになるわー、持つべきものはアンドロイド!」
「探しに行って一週間経つけどね」
「オィィィ!!完全にたままで行方不明じゃねーかァァ!なんでそんな悠長にしてんだよババァ!」
「ちゃんと紛失届け出してあるから大丈夫さね」
「あくまでもモノ扱いかっ!あーもう!あのジジィまじで何処行きやがったんだよ!」

ムシャクシャしながらも銀さんはその日、しこたまお酒を浴びる程飲んではこの状況を少しでも忘れようとしているようだった。


「名前ちゃーん」
「は、はいっ…!」
「この顔どう思うよ?」
「どっ…どうって」
隣に座った銀さんはかなり酔っているようで、それはいつもより少量のお酒にも関わらずかなり酔いが回っているようだった。

そりゃそうだ、その体はあくまでも土方さんのものなのだから、銀さんのいつものペースで飲んたら確実に酔いは早くやってくるに違いない。
それを完全に無視して飲み続ける銀さんは、土方さんの顔をして私との距離を平気で詰めてきた。

「この顔で落ちない女はいないんだろうなーってさー、名前ちゃんだっていちいち反応するしー?俺なんか毎朝鏡見て犯罪者顔に驚いて二度見しちまうのに」
「銀さん、名前さんに絡み酒はやめてくださいよ、みっともない」
「うるっせー!お前にこの気持ちが分かるかよ!俺の誕生日なのになんで俺が俺じゃねーんだよ!?ふざけんな!お前なんかまたメガネだけになっちまえ!今度こそ踏み潰して粉々にしてやるからな!」
「八つ当たりしないでくださいよ大人気ない!」
「メガネはそろそろ寝ろ!お子様はさっさと神楽みたいにそのへんで寝てろ!」

そう言った銀さんが指さした先には、ソファで横になり炊飯器を抱えたままの神楽ちゃんが熟睡していた。
「よくこんなやかましいところで寝られるねこの子は…」
神楽ちゃんに毛布を掛けてあげると、カウンターに座りお登勢さんはまたタバコに火を付けた。

「銀時が前に女になった時にみたいに、原因が明確じゃない限り解決はしなさそうだね」
「他人事だと思いやがってババァ…」
「いいじゃないのさ、アンタはその顔をもっと有効活用するべきだよ」
「有効活用…?」
「女がイチコロならホストで荒稼ぎでもしたらいいじゃないか」

お登勢さんが言うともっともなことを言っているように聞こえるが、それは土方さんにかなり念押しで止められている。
“とにかく俺の顔で変な真似はするな”と。
毎日のように万事屋に電話を掛けてきては新八くんに確認を取り、職場では直に私に聞いてくる始末だ。
それくらいには結構心配らしい。

「見張りがいなきゃ結婚詐欺でもしてやるのになー」
「銀さんアンタ今サラッと犯罪者になる発言しましたね…仮にも今は警官の顔借りてんですから発言には気をつけてくださいよ…」
「いや、まずは私の前で結婚詐欺とか言うのやめようか」
聞き捨てならない銀さんの発言に間違った新八くんのツッコミ。
一応彼女である私の前で他の女と結婚とか言うなよこの人は。

「違うって名前ちゃん!今はあくまでもマヨネーズ王子の顔だからさ、それなら何やってもいい的な意味で言ったんだよ?!浮気とかそういうんじゃねーから!」
「どっちにしろ人としてアウトだからね、それ」
「ですよねー!」






top
ALICE+