朝起きて私は驚きのあまり、ふすまにめり込んだ。




物事は結果から報告するべし




昨日はあのままほろ酔い気分で寝てしまったようで、朝起きるとひとつの布団で温かく銀さんと寝ていた。はずだった…

しかし隣に居たのは土方さん。
そうだ、まだ中身入れ替わったままだった。
なのに昨日は銀さんの誕生日だとお酒を飲んで、お互い酔っててなんやかんやあったものの、結局眠気に負けて布団で寝て…

あれ、そのまま寝たよね?寝たよね?!間違いなんか起きてないよね?!
いくら中身が銀さんだからと言って、土方さんの体と…そんな間違いがあってはならないし!

徐々に頭が覚醒していくと、この状況はかなりマズイということにたどり着いた。
「わァァァ!!」
布団からガバっと起き上がりそのまま後ずさりしようと思ったのに、寝起きもあってか足がもつれて私はそのままふすまめがけて派手に倒れ込んでしまう。

「うっせーな朝から…」
モゾモゾと気だるそうに起きたのは黒髪に寝癖を付けた土方さん、もとい銀さんだ。
「……何してんの名前ちゃん」
気の抜けたその声に名前を呼ばれるのも幾分か慣れてしまった。

しかし布団で寝ていたとあってはさすがに問題だ。
私は急いで起き上がって外れたふすまを直す。
その姿を寝起き一発目から見た銀さんは目を細めて不審がっていた。

「おはおはおはおはようございますっ…!!」
「どもりすぎだし!とにかく落ち着こうか」
「きっ!昨日!何もしてないよね?!」
もし何かあったらどうしよう!土方さんに何て言えば!?いや言わないけど!あっても言わないけどォォ

「あー…覚えてねーな…」
銀さんも寝起きから覚醒してきたのか、今の状況を察知して眉間にシワを寄せた。
「え、ウソだろ、布団ひとつじゃん、え?これって一緒に寝ちゃった系?」
「寝ちゃった系ですね!」
涙目になりながら私はパニックを起こす。

「でも服着てるし、大丈夫…だよな?」
「私に聞かないで!私も記憶あんまりないから!」
「どうしよ、これなんかあっちゃったら俺すげぇ複雑じゃん、散々“我慢の限界”とか言ってきたけどこの体で名前ちゃんとやる事やっちゃったら戻った時どうしよ…え、どうしよ?!」
「だから私に聞かないでってば!」
その後私達二人は微妙な空気になり、二日酔いの体を引きずって一人ずつお風呂を済ませた。

「朝から風呂なんて、どういう事なんでしょうねィ」
私がお風呂から上がってくると、そこには気まずそうな銀さんとやたらと態度のデカイ総悟がソファにどかりと座っていた。

「お、おはよう総悟…」
「おはようって時間でもねェですけどね」
「…ですよね…」
妙に威圧的な空気を醸し出しては無表情の総悟がちょっと怖い。

「昨日はドンチャンやってたらしいじゃねェですか」
「あ、うん、銀さんの誕生日だったから、ね…」
「どーせまたしこたま飲んでそのままベッドインって寸法か」
「ちちち違うから!全然そーゆーのじゃないから!!」

溜め息をついた総悟は椅子に深く座り直し、脚を組んだ。
「土方さんに嫌な予感がするから見てこいってパシらされたコッチの身にもなってくだせェよ」
「嫌な予感って…」
「自分の身体をいいように使われてちゃさすがの土方さんでも気付きまさァ、でもあの人ビビリなんで自分の目で確かめる勇気もねェって情ないオチでね」
「使ってねーよっ!いろんな意味で使ってねーよ!てか人のもん使いたくもねーよ!」
「ぎ、銀さんっ…!」

いきり立つ銀さんをなだめつつ、この雲行きの悪さにどうしたもんかと頭をフル回転させる。
しかし昨日飲んだお酒がどうやら体にも脳にもまだ残っているようで、考えれば考える程気分が悪くなってきた。
ああ、これ、世で言う二日酔いだ。

「ま、俺はありのままをうちの副長さんにお伝えしまさァ」
よっこらしょ、となんとも年寄りくさい事を言い総悟はソファを立ち上がると玄関に向かって行く。
まずい、このまま帰られたら誤解されたままだ。それはまずい。かなりまずい。

「総悟!ありのままって…何言うつもり?!」
総悟の腕を玄関先でようやく捕まえ、振り返らせる。
「何って、様子見に行ったら事は終わってやした、と」
「どんだけ話盛ってんのっ!?」
「事実だろ」
「違う!全然違う!」
「土方さんも複雑だろうなァ、今後どんな顔してお前と仕事していくのか見物だねィ」

にやりと嗤った総悟は久しぶりに見る生き生きとした顔をしていた。
獲物を見つけた野生の動物のような。
よく見る顔だけど、事が事なだけになんだかちょっと怖い。

「本当に誤解だからね?!何も無かったって!絶対!そんな事する訳ないから!私絶対阻止するし!てか銀さん以外は拒否するし!」
「あの顔を目の前にして拒否する女がいるんですかねィ」
そう言って総悟が指さしたのは銀さん、と言うか土方さんの顔。

確かにそう言われてしまえば、そうだけども。
そりゃ毎日無駄にドキドキしてますけど。
そもそも土方さんと付き合う女の人ってあの顔を見慣れたりするんだろうか。

私だって平日は毎日仕事で土方さんと一緒だ。
彼が外に出たりしない限りは朝から夕方まで一緒。なのに未だにその顔には慣れない。
目が合うと緊張して目が泳いでしまう。そのくらいには男前って事なのだ。
銀さんには絶対言えないけど。

「ホントに様子見に来ただけかよ、何か手土産くらいねーのか気が効かねぇなあ」
銀さんも玄関先まで来ては総悟に嫌味のひとつを投げかける。
「手土産なんざコッチが貰いてェくらいでさァ、迷惑掛けられてるのはうちなんですからねィ、何が面白くて元攘夷派だった奴の身体で将軍護衛しなきゃならねェんですか」
「俺の体だって日々あぶねー所に晒されてんだからなー!頼むから五体満足で返してくれよ?!」
「それは保障できやせんねィ」
イヤミをイヤミで返すのが何とも総悟らしかった。

「あ、そうだそうだ、土産話があったんでした」
「何だよ今更、手短にしてくれよー」
「あの怪しいジジィ、源外のジーサンでしたっけ?一応ココ来る前に店の前通ったらどうやら帰って来てるみたいでしたぜ」

「……それを早く言えェェェェ!!!」




top
ALICE+