土方さんとの昔話を少しだけ思い出してみる




馴れ初め




土方さんが女性を口説くなんて昔から想像がつかなかった。
モテるだろうし、口説くなんてことせずとも向こうから勝手に寄ってくるレベルだとも思っていた。
だから土方さんに俺のモンになれ、と言われた時に素直に喜べなかったのが事実だ。

昔の私なら手放しで喜んで、即答でイエスと答えたであろう。
でも今の自分はあの頃程若くはない。色々な経験や雑念みたいなものが素直な頃の自分を掻き消していた。

「何でお前そんな感じなんだよ、嫌なのか?」
「土方さん軽い」
「ハァァ?! 俺の何処が軽いんだよ!? 俺の何処にチャラい要素があるんだよ!? 世間じゃ硬派で通ってるんですけどォォ!」

硬派と言うより土方さんが女性に疎いのは昔からの事だから知っていた。
今もその疎さは健在のようで、飲みに行った際に近藤さんや総悟くんらにその話題でよくからかわれたりしていたものだ。

「一応これでも俺なりに色々考えたんだよ」
「何を…?」
「色々だよ」
「だから何を?」

多分だけど、この空気から察するにミツバさんの事とかだろう。
ミツバさんが亡くなったのはここ何年か前だ。
その時の土方さんは、今まで見たことのない程の落ち込みを見せたのを覚えている。

近藤さんに励ましてやってくれとか、そばに居てやってくれとか言われて何と無くそばについているようにはした。
思ったより土方さんの気持ちの切り替えは早かったようで、一週間もするとまたいつもの仕事の鬼の土方さんに戻っていて、意外にアッサリしていたことにこちら側が驚いた程だ。

「アレだ、その、俺のせいでお前が危険な目に合うとか…… 目ぇ付けられる事とかあるかもしれねぇし」
「え? そっち?」
「は? どっちの話してんだよ」
「いや…」
口に出すべきか悩んだ。
聞いておきたいとは思いつつも今更引っ張り出してくることでもないような気もしたからだ。

「あー、…まあお前の言いたい事はなんとなく分かるけどよ」
ちょっとバツが悪そうに土方さんは頭をガシガシと掻いていたので、私も聞いたことに対して少し後悔してしまう。

「あいつは俺の何でもなかったんだよ、それこそ友人で終わってった」
それは土方さんとミツバさんがお互いに言い出さなかったからだ。
どちらかがキッカケを作っていればああはならなかったかもしれない。

「ま、それで良かったんだろうな」
「本当にそう思ってる…?」
「少なくとも後悔はしてねぇよ」
そう言われて私の胸のつかえが取れたような気もした。それと同時に“本当にそう思っているのか”と言う疑問も生まれた。
しかしこの時、土方さんに言い寄られもちろん悪い気はしなかった私は生返事でその場はしのいでしまう。

最後に急にどうしたのかと問えば、近頃私と銀さんの仲が良すぎるのではないかと結構気にしていたようだった。
正直な話、そう言われても銀さんとは土方さんと再会する前からこのかぶき町で知り合った人だ。
私の職場である定食屋にもよく通ってくれて、たまに誘われて飲みに行くような仲になった。

銀さんは私に対して何かと良くしてくれていたのだが、土方さんと再会してその事を聞いた土方さんは心底嫌そうな顔をして「なんでよりによってアイツと知り合いなんだよ」と言われた。

何度か銀さんと並んで歩いて居たところを土方さんに目撃されたこともあったけど、その度に凄い目付きで睨まれたものだった。
どうやら彼はその事がずっと気に入らなかったらしい。
そしてここへ来ての“俺のモノになれ”宣言だそうだ。

理由はともかく土方さんにとって私はヤキモチを焼いてくれる存在であることが分かり、そこは素直に喜んでおいた。
独占欲なんて持ち合わせてなさそうな、それどころか女にあまり興味がないような人だと思っていただけに余計にその気持ちは嬉しかったのだ。

でも、どうしてもこの場で返事を返す気にはならなかった。
正直土方さんが何を考えているか分からなかった。
人の気持ちなんて到底分かるわけ無いと今までも思ってはいたけれど、土方さんの内なる部分が本当に分からない。

どうして今更、そしてどうして私なのか。
ただ、気に入らない銀さんに対して嫉妬をしただけなのかもしれない。
どうして、このまま友人のままでいられないのか。
そんな疑問ですら聞けず、私たちの友人関係ですらここで完結してしまう。



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