「なにが“ゴメン”なんでェ」





時と共に君を深く





ベッドで横になっていた総悟は寝返りを打ってはこちらを見据え、目が合ってしまう。
完全に寝ていたと思っていただけに、聞かれてはマズイ言葉を発していた事に今更気付く。

「他の男にでも惚れちまいましたかィ」
「…っ」
違う、と言う前に先程まで夢の中に居たとは思えない程、総悟は間髪入れずに淡々と話し出した。
「言っとくが俺は絶対別れませんぜ…お前が惚れた男なんざどんな手ェ使っても素性暴いて殺しにいってやりまさァ」
起き上がり、ベッドに座る総悟はそう言いながら相変わらず真っ直ぐな視線をこちらに向けていた。

「名前、お前はもう俺のモンだ、他の男なんざ片っ端から斬り捨ててやる、だから諦めなせェ」
諦める?何を?総悟の意図がいまいち伝わって来ない。
だって総悟は、他の女の子と会っているって言うのに、どうして私は他の男に目移りしてはいけないんだ。

「総悟には他に新しい人が居ても、私はこうやって束縛されるんだ…?」
「はぁ?他の人?何の話ししてんでェ」
「…今日見たよ…女の子とコソコソ会ってるの…」
「コソコソって……あー、アレか」
気になって仕方なかった事をようやく総悟にぶつけられたが今度は恐怖が襲ってくる。
この後何と言われるのか、そればかりが頭をいっぱいにして心臓は低音で鳴り響いていた。

「お前にはアレが女に見えたんだな」
「………え」
「先に言っとくがお前は俺のモンだ、それと同時に俺はお前のモンでもあるんだぜ」
微かに笑ったように見えたのは気のせいだろうか。
張り詰めていた空気が少し和らいだ気がしたが、変わらず私の頭は若干のパニックを起こしていた。

「お前に言うと絶対恥かくと思って黙ってやしたが…まあ見られたんなら、黙ってる訳にもいかねェしなァ」
頭をガシガシとかいた総悟はバツが悪そうにしつつも、こちらをチラリと見ると仕方なさそうに話し出した。

「ありゃ女じゃねェ」
「総悟から見たら、でしょ…」
例え総悟があの子に興味がなかったとしても、そんな言い訳では納得出来ないのが世の女性の意見だと思う。
私だってそんな言い訳では納得がいなかった。

「いや、そーゆー意味じゃねェんでさァ、万事屋の旦那の職場の奴で…手っ取り早く言えば野郎だよ、下の方もバッチリ残ってるそうなんで、確かめてみやすか?」
「銀さんの職場……って、かまっ娘倶楽部の?」
軽くそうだと返事した総悟は初めは嫌々ながら話していたものの、途中からどうでもよくなったのか半ば開き直っていた。

「何でかまっ娘倶楽部の人が…?」
「店に人数が足りねェらしくて旦那が俺を紹介しちまったらしいんでさァ、どーやら紹介料貰えるとか何とかで俺の事売りやがった」
総悟の女装なら全然いけるだろうとは思うけど、銀さんも人が悪い。
銀さんのことだからお金に目がくらんでやったことだろうし。にしても、総悟を巻き込むはやめて欲しい。

「妬いてくれんのは嬉しいんですが、ちょっと思い詰めすぎだろお前ェ」
「……」
「俺ァ、お前が思ってる以上にお前の事…」
「…?」
「いや、言葉にすると嘘くせェんでやめときやす」
その先を聞きたいのは山々だったけれど、真っ直ぐ見ていた総悟の視線が逸れてしまったのでなんとなく聞きづらくなってしまう。

思い詰めてしまっても仕方ないと思う。
総悟には絶対分からないだろう。
自分より若くて、何より容姿の良い恋人を持つと言うことの不安さを。
何でも歳のせいにするつもりはないけれど、やはり総悟が自分と比べてとても若いだけに、持たなくてもいいような不安感を持ってしまうのだ。

「あんだけ可愛くても男だと聞いた途端、さすがに興醒めしちまいやしたよ」
「ちょっとは期待してたんだ」
「男はそーゆー生き物なんでさァ」
「サイテー」
ケタケタと上機嫌に笑う総悟を見て、少し安心してしまう。
それはいつも通りで、自分の不利になるようなことは自分から言わない。それが例え恋人相手でも。
でも嘘は付かない。それが沖田総悟だ。


「俺ァ浮気する気はさらさらねェけど、お前が浮気したら真っ先に脚斬り落としてやるからな」
「え?!脚?!私の?!なんで?!」
「そりゃァ、他の男のところへ行けねェようにさ」
「なんかリアルすぎてすごく嫌…!」
「もちろん相手の男はじわじわ痛ぶって後悔させまくってからゆっくり地獄に送ってやりますぜ」
「夢に出てきそうなんですけど…」

総悟が言うとシャレにならないようなことなだけに、妙にリアルで私が変な汗をかいてしまう。
もしそんなことがあったとしたなら、本当にやりかね無いだけに。いや、間違いなく総悟ならやるんだろう。
土方さんに言われた“あんな厄介なモンに捕まったら最後だぞ”の言葉を思い出して、納得してしまうのだった。


「名前…」
先程とは打って変わり甘い声で名前を呼ばれれば、手を引かれベッドに座らされた。
「俺がお前と別れる時は、俺が死ぬ時だけだ」
そう言って抱き締められると、胸の中まで苦しくなる。
分かってはいるけれど、受け入れたくない事実でもあった。

毎日こうやって会っていること、話していること、抱き合うこと。
全てにおいていつ失ってしまうか分からないのに。
それをただ漠然と受け入れられない自分がいた。

現実めいていなかった。どこか、自分に関係ないと思っていた。
でも総悟は私と違っていつもそんなことを考え、一瞬一瞬を大切に生きているんだろう。

「そんじゃァ、仲直りついでにおっぱじめますかィ」
「ななななにを…!?」
「だーから、いい歳こいてかまととぶってんじゃねェって」
「人がセンチメンタルに浸ってるってゆーのに!!とっとと寝ろ!!」



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