「退院おめでとうございます!」




明日もきっと君の隣




総悟の下についている一番隊の部下の人達が病院に総出で迎えていた。
その光景は隊服のせいもあり、黒づくめのちょっと危ない職業の人達なんじゃないかと思わせる程の集団にも見えなくもなかった。

「こんな大勢で来るんじゃねェよ、他に迷惑だろィ」
まるでどこかの若頭かのようにその大勢に囲まれる総悟は、迎えに来ていたパトカーに乗り込んだ。

「あー、休みも終りかァ」
「休みじゃないでしょ」
「二週間ゴロゴロできてサイコーだったんだけどなー、なんでもう骨くっ付いちまうかねィ」
「先生は若いから治りも早いって言ってたけど、帰ってからもまだ少しの間は安静だからね」
「ヨッシャー、とうぶんは堂々と仕事サボれる訳だ」
「そんなこと言ってるとまた土方さんに怒られるよ」

車内で軽口を叩き合う。
こんな光景も二週間前のあの瞬間では想像もつかなかった。
今こうやって総悟とまたなんなく話せていることが貴重だと言う事を、今回身を持って教えられた気がする。


「あ、山崎、このまま名前の家に寄ってくれィ」
「分かりました」
運転していた山崎さんにそう言うと、何だか上機嫌な総悟。
「別に寄らなくてもいいよ、遠回りになるでしょ?私、屯所から歩いて帰るし」
屯所から歩いてさほど無い距離だし、天気も良いしわざわざ気を使って貰う必要もないと私は断った。

「男所帯のむさっくるしいトコに帰る前に、二週間以上ぶりにイチャついときやしょうぜ」
「なななな何考えてんの!?」
いつもの下ネタとは言え、山崎さんの目の前でなんて事を!
あたふたする私を知ってか知らずか総悟は隣で鼻で笑い、前で運転している山崎さんは咳払いをしていた。

「沖田隊長、真っ直ぐ帰らないと土方さんにどやされますよーいいんですか?」
「地味なお前まで俺らのジャマすんなよなァ」
「地味は関係ないでしょぉぉ!別にジャマするつもりはないですけど、屯所でも皆さん総出で隊長のこと待ってるんですから」
「暇なヤローたちだな、仕事しろってんでェ」
舌打ちをした総悟は窓の外を見て面白くなさそうに不貞腐れていた。



「おお!総悟おかえり!」
「せっかく退院したってェのに、名前と二人きりになりてェんですがねィ」
「ええぇぇ!帰ってきての第一声がそれぇぇ?!ただいまって言って!」
近藤さんは玄関先で両手を拡げて待っていたにも関わらず、総悟はその隣を無情にもスタスタと歩いていった。

「ちょっとぉぉ!ただいまのハグくらいしてくれたっていいじゃないか総悟ぉぉ!お前が居なくて想像以上に寂しかったんだよぉぉ」
「何で退院早々ゴリラの胸に飛び込まなきゃなんねェんですか罰ゲームですか」
「ひどい!罰ゲーム扱いとか!!」
「それじゃ近藤さん、代わりに私が胸に飛び込みましょうか?」
「えぇ?!いいの?!で、でも総悟に悪いし…!でもでも!名前さんがいいって言うなら……ぜひお願いします!」
そう言って近藤さんは満面の笑みでまたガバッと大きな両腕を私に向かって拡げる。

「二人して仲良くまた病院に逆戻りしてェんですか…?」
踵を返してゆらりとこちらに近寄る総悟の目は決して冗談めいたものではなく、私と近藤さんはそのまま固まってしまう。
「ジョ、ジョークだからね?総悟くん…?」
「そ、そうだぞ!こここここれは冗談だからな?!な?!だからそんな恐い目しないで!?」

「近藤さんに至っては本気丸出しに見えたのは俺だけですかねィ…?」
「ち、違うから!あわよくばとは一瞬思ったけど…!いやいや俺はお妙さん一筋だからね?!そんなの下心とかは全くないからね?!信じて総悟ぉぉ」
「盛りのついた雄ゴリラめ…んじゃ、償いにこれから俺らは部屋に行くんで最低一時間は部屋付近に誰も近寄らせねェで下くだせェよ」
「休むんなら一時間とは言わず、とうぶん仕事はいいぞ?まだ安静にしてなきゃいけないんだからな」
「近藤さん、アンタも勘が悪ィお人だなァ」
「え?」
「名前の悦さそうな声が聞こえても見逃してくだせェよってことですよ」
「っ…!!」
「なななな何言ってんの総悟!?そーゆー冗談は近藤さんには…」

近藤さんの方を見るとやはり顔を真っ赤にして良からぬ妄想モードに突入していたようだった。
この人にこの類のネタはダメだと総悟も分かっているのに、わざとこういったことを言っては近藤さんを日頃からからかっているようだ。


「昼間から女連れ込んでしけこむとはいい度胸してんじゃねぇか、士道不覚悟で切腹しろ」
そう言って玄関に現れたのはタバコをふかした土方さんだった。
「なんでェ、珍しい人がお出迎えしてくれたもんですねィ、明日はマヨネーズ降るなァ」
「降ってたまるか!どんな天気だよ!?だいたいそんな元気があんなら仕事しろ!」

相変わらずの土方さんも総悟に今回こんなことが起きて、少しは心配していた様子だったようでわざわざこうやって出迎えてくれる。
「ほんと人遣いの荒い職場で困りまさァ」
そう言いながらも総悟はどこか嬉しそうで、やはり真選組は彼にとって大切な家族なんだと感じさせられるものがあった。

「快気祝いって事でまた来週末に宴を予定してるから、名前さんも是非来てくれ」
「あ、はい」
「近藤さん、この年末間近のクソ忙しい時に宴会やってる暇はねぇぞ」
「いいじゃないか、総悟がこうやって元気に帰ってきてくれたんだ、トシだって総悟がいつ帰ってくるか結構気にしてたくせに」
近藤さんは肘で土方さんを突きながらニヤニヤと笑ってからかい、それに対して土方さんが少し焦った様子で“んな訳あるか!”と否定していた。

「土方さん、俺の事好きなら好きって素直に言いなせェ、その気持ち瞬殺で踏みにじってやりまさァ」
「ぶっ飛ばすぞお前っ!!!」


「あ、そうだ近藤さん」
「ん?」
総悟は思い立ったように、いつもの大きな目をさらに大きくして近藤さんを見つめていた。
「俺、今日から全快するまで名前の家で過ごしてもいいですか?」
「え?」
「は?」
「お前何考えてんだ…」
近藤さんと私と土方さんが、総悟の一言に対して反応すれば総悟はいつもの無表情のまま、さっさと廊下を歩いて行ってしまう。

「そうと決まれば適当に荷物まとめてきまさァ」
「ちょっ?!総悟くん!?」
私はいいなんて言ってないし!そもそもそんな話今初めて聞いたんですけど?!そして近藤さんも許可出してないし!何考えてんのこの子?!
若干パニックになりつつも、近藤さんの顔を見てみれば近藤さんも明らかに困惑していた。

「近藤さん!土方さん!止めてくださいよ!」
「んだよ、お前の許可も無しにあいつ勝手に行く気満々なのかよ」
土方さんがため息混じりにそう言うと、隣にいた近藤さんは珍しく眉間にシワを寄せていた。
さすがの近藤さんも総悟の勝手な行動に今回ばかりは雷を落とすつもりなのだろう。

「総悟っ!!」
近藤さんの声が廊下に響き渡ると、総悟も足を止める。
「………一週間だ」
「え?」
「ちょ、近藤さん…」
私と土方さんが一斉に近藤さんを見ると、そこには何故か泣きそうになっているゴリ…近藤さん。

「あと……毎日俺にメールしなさい!!」
「分かりやしたよ」
めんどくせェなァとだけ言って総悟はまた廊下を歩いて部屋に向かっていく。
「ちょっとぉぉぉ近藤さん!何を母親みたいなこと言って送り出してるんですか!?止めるとこでしょ?!さっきのとこ止めるとこでしょ?!」
「だって総悟に嫌われたくないんだもん!」
「どこの馬鹿親だよ!!アンタがそういう育て方したからあんなのが育っちまったんだろうがよ!?保護者としてもっとしっかりしろよ!」
「トシひどい!俺だって譲歩して一週間にしたんだから!」
「アンタの微妙な譲歩なんかどうでもいいんだよ!」
私と土方さんに責められさらに涙目になっている近藤さんは、本当に馬鹿な親の代表みたいなことになっていた。

「アンタがそんなんだとそのうちケロッとした顔でデキちゃった、とか言い出すことになるぞ?!」
「それはそれでめでたいからいいじゃないか、わっはっは!」
「わっはっはじゃねーし!楽観的すぎんだよ!苦労すんのは女の方だぞ?!つーかあいつが相手じゃコイツが苦労すんのは目に見えてんだろ?!ちっとはフォローしてやれや!」
そう言って土方さんに指を差された私。

なんだか今度は土方さんが私のお母さんみたいな事になっていて、笑いがこみ上げてくる。
本当、土方さんはしっかりしていると言うか真っ直ぐと言うか規律に厳しいと言うか。

「お前聞いてんのか?!何笑ってんだよ!誰の話してると思ってんだ!」
「あっごめんなさいっ」
「よーし、準備出来たんで行きやすか、名前」
「準備早すぎんだろっ!」
「総悟!三日に一回くらいは屯所に顔出すんだぞ?」
「寂しいんならハナっから許可出すな!」

そんな土方さんの怒涛のツッコミも虚しく、ほとんど荷物なんて持ってない総悟に手を引かれて私の家路を二人で帰ることになるのだった。




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