「名前、飯まだー?」




遠くない未来




「ちょっと待って、もうすぐ出来るから」
台所に立ち、いつもは一人分の食事しか作らない私がここ五日、二人分作っている。
それはもちろん、ベッドにもたれかかりまるで自分の部屋にいるかの如く寛いでいる総悟の為だ。

「俺、もうここ住むわ」
「何言ってんの、近藤さんのそば離れられないくせに」
ふふ、と笑うと総悟は「そんなことねぇよ」と半ば不貞腐れいた。

「あ、じゃあお前が屯所に住みなせェ」
「ムリムリ!私は気ままな一人暮らしが性分にあってるの」
「そんじゃあ、一生嫁に来ねェって事ですかィ」
「よ、嫁って……」
「まぁ屯所近くに家建てるってのも有りですがねィ、子どもが出来たら今まで通りとはいかねェでしょうし」
次々に出てくる総悟の言葉にポカンとしてしまう。
この歳でなんて現実的と言うか、どこまで先のことを考えているのだろうと驚いてしまった。


「こうやって世話焼いて貰ってると、このまま嫁にしたくなりやすねェ」
「…総悟」
「ん?」
「わ、私、そんな焦ってないからね?」
「はあ?」
「総悟だってまだこれからやりたい事あるだろうし、私の為…と言うか、その、適齢期とか気にしなくていいから…!」

前に総悟が言ってたように、結婚したい願望をプンプン匂わせている女にはなりたくなかった。そう思われるのも嫌だし、私自身も本当に焦っていない訳で。
もしそれを総悟が変に気にしていたり、私に気を使っているとしたならやめて欲しかった。

「俺がしてェんでさぁ」
静かにそう言うと総悟はどこか遠くを見つめるような目をした。
「総悟…?」
「出来ることなら一刻も早く」
「どうしたの?…もももももしかしてどこか体悪いの?!余命宣告受けたとかっ?!!」
「ちげーよ、なんだそのどこぞの映画みたいな話」
「だって総悟が急にそんなこと言うから!」

総悟が遠い目を再度したかと思うと、すぐに視線をこちらへ戻しニコリと笑う。
「なんでもねェよ」
その言葉はいつも通りだったけれど、どことなく寂しさのようなものが感じられた。

「もしかして、総悟……」
「んあ?」
「家族が欲しい、の?」
直球的に聞きすぎたかと思った矢先、想像以上に早い返答が帰ってくる。
「ハハ、お前はなんでもお見通しだなァ」
伸びをしながら笑っているのに、やはりどことなくいつもの総悟ではないような気がした。

「死にかけて、改めて思った」
ベッドに頭を預けたまま、天井を眺めて言葉を続ける総悟を私は少し距離のあるところから見ていた。
「吹っ飛ばされる瞬間、お前の顔が浮かんだんでさァ」
目は見開いたまま、瞬きもせず彼は天井を見つめていた。

「そこは近藤さんだろって思ったんですがねィ、まさかのお前だよ」
「悪かったね」
総悟が意地悪く言うので、私も反抗してみる。
「そん時……死んじまったら駄目だって、思ったんだよ」
「…」
「お前、一人にしたらすぐ他の男のとこいきそうだし」
「え?!そこ?!」
「俺が死んだらちゃっかり土方あたりいきそうだもんなァ」
「いかないし!」
「万事屋の旦那なんか弱ってるお前に普通につけこみそうだし、意外にも近藤さんあたりがガッツいてきそうな気もするし…」

考えすぎだと途中からツッコミたかったけれど、総悟は思ったより真剣そうだったので言わないでおいた。
「俺が死んで未亡人になっても、他の男のトコなんか行くなよな」
なんて身勝手な言い分だと思うのが普通なんだろうけど、これが総悟らしいと思ってしまうんだから私も結構重症なんだと思う。

「んじゃ子ども五人計画実行だな」
「…!」
「子ども五人もいたんじゃ誰も貰ってくれるアテはねェでしょ」
掴まれた腕に私は少し抵抗すると、総悟はわざとらしくイテテ、と言って右の脇腹を抑えてみせる。
「…折れてたの左でしょ」
「そうでしたっけィ」
そ知らぬ顔をしてそのままベッドに引き寄せられれば、するりとお尻を撫でられる。

「ご飯は…」
「食前の運動でさァ、付き合えよ」
「総悟、安静なんだ、から…」
「何を今更……この五日、毎晩愛し合ってるってェのに今更その言い訳はねェでしょ」

ベッドに寝かせられ、首筋を撫で上げられるとゾクリと全身が反応する。
もうこの体も心も、総悟のものだ。
次がどうとかなんて考えられない。

「総悟……」
「待ったは無しですぜ、もう下の方の俺が無理なんで」
「五人……」
「ん?」
「ご、五人産むまでは…絶対死なないって…約束してよ」
総悟の動きが止まる。
近すぎる距離からは表情は伺えなかったが、心臓の音が先程よりは少し早くなった気がした。

「やっぱり子どもはキリよく十人にしやしょう」
「めっちゃ増えてるしっ!!!」




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