「はーーー?!!プロポーズゥゥゥ?!!」





何故か年末は忙しい





「年末のこのクソ忙しい時に!?」
「いやいや、それは関係ないでしょ銀さん」
「銀ちゃんは年末ダローが正月ダローがいつも忙しくないネ、毎日がホリデーアル」
「うっせーよ!今そんな話してねーだろ!」
口々にそう言うのは万事屋三人衆だ。

クリスマスの忙しいシフトを終え、年末の貴重な休みの日。
そんな私とは逆に、真選組は年末でバタバタしているらしく総悟の休みも案の定正月まではないようだった。
そんな私は丸一日の休みを持て余し、久しぶりに万事屋に差し入れとともに遊びに来ていた。

「それはそーと、名前さん沖田さんにプロポーズされたって、本当なんですか?!」
「う、うん…」
「おめでとうございます!」
とてもいい笑顔を私に向けてくれるのは唯一の常識人、新八くんだ。
それとは逆に銀さんと神楽ちゃんは眉間にシワを寄せ、親子のように同じ表情をしてシンクロしていた。

「絶対やめといた方がいいアル、あんなサド野郎に名前をやるなんてこのワタシが許さないアル!おととい来やがれサド野郎!!」
「あんなガキンチョが結婚だぁ?!十年早いっつーの!」
「まぁまぁ二人とも、そりゃ名前さんが沖田さんに取られちゃうの悔しいのは分かりますけど、ここは祝福するべきところでしょ」

「マヨラならともかくなんであのポンコツサド野郎ネ!あんなのただの頭オカシイ変態アル!考え直すネ名前!今ならまだ間に合うアル!」
「そうだぞ!世の中にはもっと銀さんみたいないい男がごまんといるんだぞ?てか銀さんがいい男ならそこは銀さんで良くね?もう銀さんで良くね?」
「アンタら結局祝福する気ゼロかよ!」

新八くんの盛大なツッコミも虚しく、二人は総悟のプロポーズをあまり宜しくないと思っているようだ。
私としてはもちろん嬉しい。けれどその半面、まだ早いよな…と言う気持ちもかなりあったのが本音だ。


「それがまだ…受けてないとゆーか…正式には…」
「え?返事してないんですか?!」
「キャッホーーー!ざまあみろアル!このままサド野郎フラれるがいいネ!その間に銀ちゃん略奪するネ!」
「神楽ちゃんは黙ってなさい!」
ニヤニヤする神楽ちゃんに新八くんはお母さんのような口調で叱りつけていて、話の内容はともかく何だかとても微笑ましくなる。

「そりゃまぁ保留で当然だろー、相手はあのドエスの王子様だぞ?毎日首輪付けろとか要求されるんだぞ?一生そんなプレイを続けるなんて並大抵の覚悟ねぇとムリムリ」
「そうネそうネ!名前、要求ばっかする男なんて所詮ダメ男アル!女の要求を受け入れるのが本来の男の姿アル!」
「神楽ちゃんどこでそんなセリフ覚えて来たの…?」
「この前見たドラマで言ってたアル」

確かに要求は多い。
先日もクリスマスイヴに変なサンタの衣装を着せられたばかりだ。
まさかのサプライズがあったものの、その後に自分はトナカイだとか言いながら、下の角をどうこうとか…しょーもない下ネタを言って結局ベッドになだれ込んだ。
やはり総悟にはムードも何もなかったのだ…


「ジャマしやすぜェ」
「うお!びっくりしたー」
万事屋の居間がガラリと開いたと思ったらそこには噂の総悟が登場。

「いつの間に上がって来たんだよお前」
「声掛けやしたぜ?でもチャイナの声がデカ過ぎて聞こえてなかったみたいなんで、上がらせて貰いやした」
「不法侵入アル!警察に突き出してやるネ!!」
「いやいや神楽ちゃん、沖田さんこう見えて警官だからね」
「こう見えてってどーゆー事でィそこのメガネ」
「あっいや、別に深い意味は…」

新八くんが苦笑いを浮かべつつ、総悟にお茶を煎れようとソファを立ち上がり台所に向かう。
その空いた場所にドカリと座る総悟は私と向かい合う形になる。
そしてなんとなく総悟にを見ると、バッチリ目が合った。

「家行ってみたらお前居ねェし」
「総悟とうぶん忙しいって言ってたから」
総悟を改めて真正面から見てみると、首には先日クリスマスプレゼントにとあげたベージュのマフラーが巻かれていた。
なんだかそれがさり気なさすぎて、妙にこちらが照れてしまう。

「昼休憩くらいはありまさァ」
「キミはいつも昼休みみたいなもんだろ、総一郎くん」
「年中昼休みみたいな生活の旦那に言われたくねェんですけど」
「年中とかゆーなよ!働いてる時もあるわ!」

「俺だって今じゃ真面目に労働してますぜ、なんたってそのうち所帯持ちになるんで」
サラリとそう言った総悟に私達は絶句してしまう。
あまりの総悟のキャラに似合わないセリフを言われたからか、皆もツッコミし損ねてしまっているようだった。

「…や、所帯持つってキミ、いくつよ?」
「一応設定的には十八、ですねィ」
「設定も何も十八だろ?!どー考えても早いだろ?!早とちりしすぎだろ?!人生長いんだからさ?もっとエンジョイしてもいいと思うよ銀さんは!」
隣に座っていた銀さんは総悟の方を向き、説教のようなものを始めた。

「だいたい十八っつったらあのメガネと二つしか変わらねーんだぞ?!」
「いい加減人をメガネ呼ばわりするのやめてもらえませんか銀さん」
新八くんが居間に戻ってくると、総悟にお客さん用の湯呑で温かいお茶を出していた。

「旦那ァ、このメガネも二年ありゃ随分変わりますぜ」
「バカヤロー!たった二年でシスコンが治りアイドルオタクが治り、そして童貞卒業出来ると思ってんのか?!!あと二年で所帯持ちたいって思うわけねーだろこの色々と残念なメガネが!」
「二年ありゃ何とかなりまさァ、まぁ頑張りなせェメガネくん」
「あ、ありがとうございます……ってアンタらなんの話してんだよォォ!!ほっとけよ!シスコンとかオタクとかメガネとかほっとけよ!治る治らないとか病気扱いかよっ!!そして童貞の何が悪いんだよォォ!!?」

「新八が一生チェリーの事なんてどうでもいいネ、それより名前はサド野郎なんかの嫁になってしまうアルか?そんなの嫌アル」
「ちょ、神楽ちゃん、僕が一生チェリーとか誰も言ってないからね?なんでそこさり気なく一生とか言っちゃうかな?」
私の隣に大人しく座っていた神楽ちゃんがついに戦闘態勢に入る。これは嫌な予感しかない。
総悟と神楽ちゃんはまさに水と油。決してお互いを譲らない関係性だ。

「チャイナ、テメェ今“サド野郎なんか”って言いやがったな」
「何度でも言ってやるネ!お前みたいなガキに名前はふさわしくないアル!銀ちゃんとの方がよっぽどお似合いネ!」
「ガキはテメェだろ、人の色恋沙汰に水差してんじゃねェぞ…文句があんならオモテ出ろィ」
「望むところアル…お前なんかひねり潰して二度と名前に近づけないようにしてやるネ…」

真っ黒いオーラを放った二人がゆらりと立ち上がり、眼光を光らせていた。
これはますますマズい事になってきた。
これじゃ万事屋どころかかぶき町が廃墟になり兼ねない。

「総悟!神楽ちゃん!持ってきたおまんじゅう食べようよ!どら焼きもあるよ!?だから落ち着こう、ね?!」
「食べるアル!!」
一番に食いついたのはやはり神楽ちゃん。
先程までのどす黒いオーラは何処へやら。あっという間にご機嫌になり、また私の隣に座って茶菓子の入った箱を開けていた。

「新八ぃ!ワタシにもお茶くれアル!」
「はいはい」
皆の分持ってきますから、と新八くんはまた台所へ引っ込んでいく。
総悟も舌打ちをしつつ、銀さんの隣へ再度腰をおろし眉間にシワを寄せていた。



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