「とにかくだ、銀さんは反対です」
「ワタシも反対アル」




大掃除はいっぺんにやるもんじゃない




万事屋に遊びに来ていた私は、途中総悟の乱入があったものの皆でテーブルを囲み、手土産にと持ってきた茶菓子を食べていた。

「だから何でアンタらの許可が必要なんですかィ、誰なんだよ名前の何なんだよ」
「俺らは名前ちゃんがここに来た時からずーっと見守って来た仲なんだよ、そうやすやすと奪われてたまるかってんだ」
お互いにどら焼きを頬張りながら言い合いをする銀さんと総悟。
喋るか食べるかどっちかにして欲しい。

「奪うも何も、元から旦那のモンでもねェでしょ」
「そーだけどぉー付き合ってまだ間もないのにすぐ結婚とか言っちゃうあたりが信用ならないというかぁー」
銀さんは唇を尖らせて何故か女子高生のような話し方をして反論していた。

「銀さん、男女の仲は時間じゃないそうですよ」
再び居間に戻って来た新八くんはそう言いながら神楽ちゃんと銀さんにもお茶を出し、すでにあった私の湯呑にも淹れたての温かいお茶を注いでくれた。

「ハァ?童貞に何言われても全然心に響かないんですけど?響いてこないんですけど?」
「姉上から聞いたんですよ、ってさっきから童貞童貞言わないでもらえませんかね?!!」
「とにかく、俺はもうコイツって決めたんで、周りに何言われようが考えを変える気はありやせんぜ」
「お前もゴリラと同じアルか、所詮お前ら税金泥棒はストーカー集団ネ」
「あのゴリラと一緒にすんなよ、俺はちゃんと同意の上で毎晩ヤっ」
「コラァァァァ!!それ以上言ったら本気ではっ倒すからね!!」

私は総悟の失言をかき消すべく、大声で阻止した。
神楽ちゃんと新八くん相手になんてこと言うつもりだコイツ。



「全く…あーゆー事を神楽ちゃんの前で言わないよーに」
総悟はちゃっかりその後も万事屋ティータイムに付き合い、すっかり夕刻に近くなった時間帯。
一番陽の短いこの季節、陽が傾きオレンジに染まった空を眺めながら家路を二人で並んで歩く。

年末のかぶき町はなんだか少し浮き足立っていて、歩く人々の足取りも軽やかだった。
この人々の殆どが連休で、きっとそのせいでもあるんだろう。
私や真選組である総悟には年末休みなんて無縁だけど…なんて皮肉めいた気持ちが少しよぎった。


「ところで、総悟仕事は?とっくにお昼お過ぎてるよね、戻らないとまた怒られるでしょ」
「戻りますぜ、お前の部屋でちょっと休んでから」
「は?!」
「束の間の休息に恋人とイチャついても誰も咎めやせんよ」
「俺が咎めてやるよ」
「わっ!土方さん!?」

後ろから声を掛けられたのはいつも以上に眉間に深いシワを寄せていた土方さんだった。
振り返った私はついその鬼のような形相に驚きの声をあげてしまった。

「テメェ総悟、会議中に居なくなったと思ったらこんな所ほっつきやがって…今度と言う今度は切腹しやがれ!」
「あんな幕府のお偉い方の難しい話にゃ俺はついていけねェんで、その辺は土方さんの役目でしょ」
「お前も一番隊隊長として聞いておくべき話だから参加させたんだろ!」
「総悟、そんな大事な仕事抜け出してサボってたの?!」
「その場で寝ちまうより退室した方がいくらかマシってもんでェ」

反省の色がない総悟を見て少し呆れてしまう。
でも総悟の立ち位置は分かっているつもりだ。
一番隊の隊長。つまり、最前線に立って真選組の特攻隊と言うべきポジションにいるのだ。
そんな刀ばかり振るっている総悟が幕府の上の人達と話しているなんて想像も付かないけど、やはり仕事は仕事だ。

「アンタからも言ってやってくれ、もっと真面目に勤めろってな」
私に話を振ってきた土方さんは心底どうにかしてくれと言わんばかりの顔をしていた。
私たちの関係を知った土方さんは、始めの方はあまりいい顔をしていなかった。

総悟が私に依存に近い感情を抱いていることも、それが本気の恋だとか愛なのか区別がついていないのかもしれないということも、土方さんは薄々気付いていると思う。

これが総悟の恋愛なのか、愛情なのか、それは独特の考えを持つ総悟本人しか分からないけれど、少なくともそれを信じたいと思ったのが私だ。
そして、何も言わないのが土方さんだ。
見守っていてくれているのか、彼はあれ以来何も言わなかった。

ただの依存なのかもしれない、それでも総悟は私を選ぼうとする。
早すぎる決断に、銀さんや神楽ちゃんのように反対の声を挙げる人がいるのは仕方ないとも思う。


「さっさと車に乗れ、戻るぞ」
「へいへい、ったく面倒なのに捕まっちまったなァ」
「聞こえてんぞ」
土方さんに半ば連行れるように連れていかれる総悟の背中を見送る。すると、くるりとこちらを振り返る総悟と目が合った。

「名前、俺の快気祝いが年末はどうしても無理だってんで年明けに変更な」
「あ、うん、分かった」
「お前も強制参加だからなァ」
「え、そうなの?」
「俺の嫁さんって事で全員に紹介しとかねーと、そんときゃ指輪もちゃんと付けてこいよ」
その最後のセリフに一番反応を見せたのは言うまでもなく土方さんだった。

「ハァ?!嫁ぇ?!」
くわえていたタバコをもう少しで落としそうになった土方さんは、いつもの鋭い目付きとは逆に目を丸くして驚きの発言をした張本人を見ていた。

「おまっ、まさか…」
「クリスマスイヴにしっかりプロポーズさせて貰いやしたよ」
「なっ…!」
まさかここまで進んでいたとは思っていなかったのだろう。
土方さんがこんなに驚く姿を見たのは初めてだった。

「何考えてんだお前!?」
「色々考えてますぜ、こう見えて」
「お、おいっ!」
土方さんを置いてパトカーにさっさと乗り込もうとする総悟は私に“じゃあまた明日の夜にな”と言って手をヒラヒラと振って去っていった。

「じょ、冗談…だよな?」
呆気に取られていた土方さんが私を見て問う。
「本人は至って本気みたいですけど…私、まだちゃんと返事してないんです」
「なんだ、またアイツの独りよがりか」
少しホッとしたのかいつもの感じの土方さんに戻る。
「でも近いうちに返事しようと思ってます」
「…っ」
ヒュッと息を吸った土方さんは何かを言おうとしたのだろう。しかしそれは総悟の声によって阻まれた。

「土方さん何してんですかィ、サッサと行きますぜ」
助手席から顔を出し総悟が土方さんを呼ぶ。
運転席に座り、ハンドルを握る原田さんが私に会釈をしてくれたのでそれに軽く会釈し返すと、なんだか総悟も満足そうな顔をしていたのがチラリと見えた。

それとは別に、隣にいた土方さんは機嫌が宜しくないのか舌打ちをしながら隊車へと戻って行く。
その際に“気を付けて帰れよ”と声を掛けられたので私も返事をしておいた。

総悟たちが去ったあと、一人になると街が急に賑やかに聞こえてくる。
明日はまた仕事だと思うと少し憂鬱になりながら夕陽の空に向かって溜息を吐いた。

「さーて、買い物でもして帰ろうかな」

あ、そういえば大掃除もまだしてないや。
また溜息がひとつ増えてしまった。




-end-




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露草は今回で終了となります。
お付き合いいただきましてありがとうございました。

この後も二人の話は続きますのでまたお付き合いいただけると嬉しいです。


2014.12.30
西島


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