「さぁて、姫はじめといきやすか」




初詣と甘酒





年が明けてすぐに、とんでもない単語を口走った総悟は、ベッドに寄りかかって年越しの特番を見ている私の腕を引っ張った。

「な、何言ってんの」
「年明けたんだから、寝る前に一発」
「新年早々やめてよ!」
「新年だからだろィ」
年末の大掃除時期に、銀さん伝いにテレビを譲ってくれる人がいるというので譲って貰ったのがこの古めのテレビだ。

やっとうちにもテレビが来た!と感動して、年末からずっと特番を見て楽しんでいた。
一方総悟は元旦は休みだと言うので、大晦日の夕方からいつものごとくうちに入り浸っていて今に至る。


「ちょ、ちょっと待って」
「文句は言わせやせんぜ」
「は、初詣行こうよ!そう!初詣行こう!」
「なんでこんなくそ寒ィ真夜中にわざわざそんな事しなきゃなんねェんでェ、それに今から行ったところで長蛇の列でさァ」
「若者が何言ってんの!それが初詣ってもんなんだから、むしろ醍醐味的な?」
「そんなことより布団の中で暑くなってた方がよっぽど楽しいってもんだ」
「……初詣行こう!」

半ば強引に総悟にも準備をさせ、マフラー耳あて手袋をし、カイロを懐に入れ完全防備で玄関を出た。
仕方無しな感じを出しつつも総悟は結局は私の我儘をいつも聞いてくれるのだ。

近くの神社に向かって並んで歩いていると、総悟が不意に腕を掴んできた。
「腕ぐらい組めよ」
「え、いいの?」
「いつダメって言ったんでェ」
「何となく職業柄そーゆーの外でダメなのかなって」
「俺らだってプライベートくらいありまさァ」

ほらよ、とポケットに突っ込んだ腕を私に向ける。
その腕の隙間にするりと自分の腕を絡ませた。
「あったかいね」
ん、と小さく返事をしてくれた総悟は心なしか照れているようにも見えて、ちょっと可愛いとさえ思ってしまう。


冷たい風が頬を撫でていく。
少し前まで温かった体はこの寒さでもう冷えてしまっていたが、総悟と寄り添い温かさを分け合う感覚がなんとも心地よかった。

「あー!名前アル!!」
神社に着くと、聞き慣れた元気で可愛い声が響く。
声のする方を見てみると、一生懸命手を振る神楽ちゃんの姿。その隣にはいつものメンバーに加え、お妙さんと九兵衛さんが居た。

「あけましておめでとう、神楽ちゃん」
「あけおめアル!」
銀さんや新八くん、お妙さんと九兵衛さんにも新年のご挨拶をすると皆にこやかに挨拶してくれると同時に、総悟にも注目していた。

「どーも」
相変わらず無愛想と言うか、愛嬌ってものを知らない総悟だけど周りに居るのは沖田総悟と言う男を知っている存在。
別にそれがどうこうと言った訳でもなく、普通に接してくれるのがこの人達だ。

「おーおー、新年早々アツアツで羨ましい限りで」
「銀さん、目が笑ってませんけど」
「新八ぃ、銀ちゃんは切実に羨ましいアル、恋人いない歴更新中の銀ちゃんは羨ましすぎてもう笑うことも忘れてしまった寂しい男アルヨ」
「べっつにー?!全然寂しくありませんけどぉー?!独り身は楽でいいとすら思ってますけどー?!」
「見苦しいネ銀ちゃん」
「うっせー!!ガキは甘酒飲んだらとっとと帰れ!!」
いつものトリオ漫才を見ていると、今年もまた楽しい一年になりそうな予感がした。

「俺らも甘酒貰いに行きやしょうぜ」
「あ!サド野郎に先越される前にワタシが全部平らげてやるネ!」
「やれるもんならやってみろ、その前に息の根止めてやらァ」
「ちょ、待って神楽ちゃん沖田さん!こんなとこでケンカはやめてくださいよ!」
「メガネの分まで飲み干してやるネ!」
「今年も僕のことメガネ扱い!?」
十代トリオは甘酒を配っているテントにそのまま言い争いをしつつも、まっしぐらに走っていった。

「若い子は元気ねぇ」
「妙ちゃんも充分若いじゃないか」
中間層のこの二人もなんやかんやでまだまだ若い。そんなお妙さんと九兵衛さんにそんなことを言われると私と銀さんの立場がなかった。

「んだよ、俺らがじーさんばーさんみたいな言い方だな」
「ちょ、銀さん、“俺ら”って私も含めた言い方しないでよ」
「おいおい!なんですかその自分は違いますみたいな言い方!?どー考えても俺らは仲間だろー?!同じグループに属してんだろー?!」
「ヤダ、なにグループって!属性一緒にしないで欲しいんですけど!」
「いやいやいやいや一緒だろ!一個二個違うくらいで自分だけ若者ですみたいな顔すんなよ名前ちゃーん?」
「させてよ!」
「させねーよ!俺と名前ちゃん、ゴリラ、ニコチン馬鹿は同世代組なの!そーゆー運命なの!」
「意味分んないんですけど!」

女の歳に関するデリケートな話しで言い争いを始めると、お妙さんがこちらをじっと見ていた。
そんなお妙さんと目が合うと、ニコリと綺麗な顔で微笑まれる。

「なんだかお二人、夫婦みたいね」
「僕もそう思った」
お妙さんの爆弾発言に同意する九兵衛さんも、終始頷いていた。
「んなことあのサディスティック王子に聞かれたら俺の生存怪しいんですけど、やめてくんない?」
「あら、私はずっと二人はお似合いだと思ってましたし、てっきりくっついていたものかと思ってたのよ?そしたら意外にも沖田さんと、って聞いて驚いたのなんのって」
「僕も銀時殿は名前さんに惚れているものかと」
「うぉぉぉい!!何言ってんのかなこのボンボンは!さて、俺らも甘酒貰いに行こう!タダだし!タダより美味いもんはねーぞぉ!」
そう言って向こうに行ってしまう銀さんを見ながら、私たち女子三人も足を進めた。

「名前さんは、どうして彼を選んだんだ?」
そう聞いてきたのは純粋がゆえに物事をどストレートに言う九兵衛さんだった。
「それ、私も気になってたの」
返答に困る私に更に追い討ちをかけるお妙さんは目をキラキラさせて、是非聞かせてくれと言わんばかりの表情をしていた。

「え、と……」
言葉に困る。
何と言っていいのか、正直悩んだ。
言葉で表すには難しいと言うより、たくさんあり過ぎて説明にならないと思ったからだ。

「強いて言うなら…」
「強いて言うなら?」
「一緒に居て」
「名前たちも早く来るネ!!甘酒なくなってしまうアル!タダだから皆群がってるネ!」
「あ、うん!」

私は神楽ちゃんに手を引かれて、甘酒の列に並ぶ。
神楽ちゃんはもうすでに何杯か飲んでいたようだったが、どさくさに紛れてまたありつこうとしていた。
少し向こうには総悟が銀さんと新八くんと三人で甘酒を片手に何が談笑していて、それがなんだかとても微笑ましい光景だった。


「“一緒に居て”…何なのか気になるわね、九ちゃん」
「うん…すごく気になるね、妙ちゃん」



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