「あんなんやめて俺にしときなせェ」




俺の好きな彼女の話





ここ一年ずっとそう言いたくて、そう思って名前に接して来た。
何が面白くて土方のバカヤローに淡い思いを寄せる女と仲良くならなきゃいけねーんでェ。

「あ、と…え?」
呆気に取られた名前は案の定言葉を失っていた。
そりゃそうだ。俺がこれまでそんな素振りは一度たりとも見せたことなかったからだ。
あくまでもお前に気のない、でも気心はしれた男友達だと平然を装って来た。
隣に居たいが為に。

こんな俺が女一人にここまで懸命に、そして健気になるだなんて誰が予想しただろうか。
俺だってこんな日が来るなんて予想してなかった。
馬鹿馬鹿しいと思っていたのは始めだけ。
いつの間にか俺は、まともな恋なんて気持ちの悪いものを本気で感じ始めていた。


名前に初めて会ったのは一年前。
万事屋の旦那と肩を並べて歩いていた名前を「旦那の嫁さんですかィ」と、からかい半分に言ったら全力で否定していたのが初対面。
旦那に改めて紹介された名前はどうやら万事屋を頼って来た依頼主だったらしい。

素性はいまいち不明。
山崎に調べさせると、どうやら普通の人間だがどっか別の遠いところからやって来た異国の生き物だと言うことだった。
名前には親兄弟どころか身寄りすら一人も居なかった。
それどころか戸籍さえ存在しなかったのだ。

なんか訳ありかと色々勘ぐったり調べたりしたが、本当にコイツには何も無かった。
その事情を知ってしまったのもあったのか俺はその後、からかい甲斐がありそうな名前をやたらと構うようになった。


コイツと居ると妙に楽しかったし、気付いたらいつの間にか自然体でいられるようになっていた。
なんの理由もなく仕事場に遊びに行き、仕事帰りに一緒に飯でも食って帰る。
お互いの休日が会えばどこかにブラっと遊びに行き一日遊ぶこともあった。

周りからは俺に女が出来たと茶化されたが、別に否定する事もしなかった。
いちいち否定するのも面倒だったし、勘違いされて嫌な気分になることもなかったからだ。

そんな何てことのない日常、友人でいる生活が俺にはやけに新鮮に感じた。
真選組以外の人間に関わったり、自分のそばに置いておくなんてあり得ないと思っていたし置くつもりもなかった。
友人なんて面倒臭いものいらないと思っていた。
なのに、だ。
この女は俺の根本的な考えですら覆してしまったのだ。

そして、俺はいつからか友人なんて都合のいい言葉は使わなくなった。
知らないうちに、名前に対してよく分からない感情を抱いていたのだ。
これ以上俺が俺でなくなる前に言ってしまおうと思った。

が、残念なことに自覚を持った直後、生まれ持って何事にも勘がいい俺は、名前はマヨネーズ過剰摂取ヤローに惚れているんじゃないかとピンと来てしまう。
土方のヤローに会うと何故か頬を赤らめる。
目を合わせようとしないところなんて明らかに意識している証拠だ。

なんでこうも女は顔と肩書きばっかの奴に惚れてしまうのだろうかと疑問を抱く。
俺も土方と同じ歳くらいだったら名前の恋愛対象に入っていただろうか。
俺が十八じゃなく、名前や土方さんと同等ならそういった感情を少しでも抱いてくれただろうか。


「名前、土方さんみたいなのやめときなせェ」
黙ってその丸い目を俺に向け、呆気に取られたままの名前に俺はさらに続けた。

「俺にしときなせェ」

さぁ名前、どう出るんでェ。



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