「トシィィィ!!ヘルプ!ヘルプミー!!」





俺と周りの大人の事情





「なんだよ近藤さん…て、何こんな時に遊んでんだよ」
俺の部屋に入ってきた土方さんは、俺と近藤さんがプロレスごっこでもやってるのかと勘違いしたようだ。

「トシ助けて!!マジで腕っ!腕が!抜けちゃう!!いや、これ折れちゃうからぁぁっ!!」
「おい、総悟その辺にしとけ、いくら何でもやりすぎ…」
「名前が襲われやしたよ」
「なっ…!」
俺の言葉に驚いた土方さんはタバコに火をつける間もなく、くわえていたタバコを床に落とした。

「アイツには万事屋がついてんだろ!何やってんだ万事屋の野郎っ…!何の為に任せたとっ…」
そこまで言ってハッとしたのか口を閉じた土方さんに、俺は刺すような視線を送っていた。

「土方さんまでグルたァ、俺だけ仲間外れって事のようですねィ」
「トシ…すまん…」
俺が腕ひしぎ逆十字固めを解くと、近藤さんは腕を押さえながらいろんな意味で涙目になっていた。

「カマ掛けやがったなお前」
「怒る相手が違ェでしょ土方さん、近藤さんの一言でピンと来ちまいやしてね」
「トシ…本当にごめんなさい!総悟がここまで勘がいいとは思わなくて…」
「ったく…近藤さん、アンタって人は…」
渋々その場に座った土方さんは、タバコを拾うと俺に全てを話す覚悟が出来たのか、ため息をつきつつも真面目な顔をしていた。

「さァ、どっから話して貰いやしょうねェ」
俺が気になるのは名前の事だけだ。
正直俺が狙われてるだとか、隊士共がどうだとかどうでもいい。
そしてもし俺のピンと来たことが少なからず当たっているのなら、色々と思う節もある。


「土方さん、先に言っときますが今回のこの騒動を起こしたことに関してはすいやせんでした」
「…やけに素直だな」
「事の発端が俺なのは間違いないんで、…で、こりゃどーいった作戦なんですかィ?俺と名前を別れさせて何企んでんですか土方さん」
「何も企んでねーよ!なんで俺が主犯みたいな事になってんだよ!?」

「そーだな、まずは何で俺と名前を離したのかを聞かせて貰いやしょうかねェ」
「それは勿論、名前さんの安全確保が第一でだな」
「近藤さんが考えたんですか」
「ああ、万事屋に頼んだのも俺だ」
「なんで俺に相談も無しに、嘘ついてまでこんな事」
「だってぇー総悟ダメって言っても名前さんとこ行くじゃん?!反対しても絶対言う事聞いてくんないじゃん?!名前さんの事になると見境ないじゃん!?」

何故か口を尖らせて可愛こぶった近藤さんは、言い訳のつもりかもじもじとしながら気持ち悪いゴリラになっていた。
「名前はそれに乗っかったって事ですよねィ」
「事情を説明したら納得してくれたよ、だが予定より少し早めに総悟に話を切り出したみたいでちょっと驚いたがな」

なんだよ、また大人達で勝手にそーゆー事して俺は蚊帳の外ってか。
どんだけ俺がここ何日かその事で頭いっぱいにしてきたと思ってんだ。

「総悟、勘違いされちまうと面倒だから言っとくが最近お前の暴走癖が酷すぎる、だから周りに協力してもらっただけだからな、近藤さんのせいにすんなよ」
「別に近藤さんだけを責めてる訳じゃねェですよ、アンタら大人が皆グルになって俺を騙してたって事でしょ」
「騙っ…!お前だって俺の事完全に騙した事あんだろーがよ!?それとこれがどう違うって言うんだ!これでちょっとは俺の気持ちが分かっただろ!ああ?!」
「ちょ!トシ、落ち着いて落ち着いて!今その話関係ないから!」

「っ…と、とにかく、これに懲りたら色々と自重しろ!やたらドエスなこととか!斬っちまうとことか!女の事になるとムキになるとことか特にな!」
「総悟はうちのエースであり問題児でもあるもんなぁ」
「いつまでもガキ扱いしねェでくだせェよ近藤さん」
「だったらもう少し大人になるこったな」

近藤さんならともかく、土方さんに言われると結構ムカついた。
だが、今回の件では色々とやりすぎた感はあったのも確かだった。
そもそも旦那と名前をあんなとこで見てから俺の調子は狂いっぱなしだ。

「じゃああのホテルに入ってった旦那と名前の行動も近藤さんが考えたシナリオのひとつって事ですか」
「え?ホテル?その辺は万事屋に任せてあるから俺は加担してないぞ」
「ちっ、やっぱ一番侮れねェのは旦那か」

俺だけ知らなかった事はもちろん腹が立ったが、何より一番の感情は安心が占めていた。
あれは演技だった、そう捉えていいんだよなコレは。
さて、名前の奴にはなんて言って詰め寄ってやろうか。

「総悟、さっきも言ったがこの件が終わるまでは大人しくしてろよ」
「…」
「あー!やっぱり総悟また名前さんのとこ行こうとしてるでしょー!?ダメって言ったそばから行こうとしてるでしょー!?」
「近藤さんその喋り方やめてくだせェ、ムカつくんで」



それからまた一週間、俺は壊した携帯を目の前に何度後悔したか。
万事屋に電話もしてみたが毎回チャイナか旦那が出てまともに話を聞かず、名前に取り次ぐことも出来なかった。
なんでこーゆー時にメガネが出ねェんだよ。なんの為のマトモキャラなんだよ。

だからと言って屯所を抜け出す事もできず。
本当なら抜け出せたが、これで抜け出したらこれから死ぬまでガキ扱いが続くと思うとうんざりしたので諦めた。

俺は一生のうちで一番長い時間を体験したような、そんな感覚になりながらの一週間だった。
屯所内は相変わらず忙しいみたいだったが、治安の悪化は最小限で抑えられたと言うことを山崎に聞いた。
何やら見廻り組と百華の自警団が動いたそうだ。
どいつもこいつも人の面倒ごとに首を突っ込むのが好きらしい。


「ほぼ壊滅状態だそうだぜ」
「旦那も相変わらず首突っ込むのが好きみたいですねィ」
「乗り掛かった船だしな、あとお前らポリ公には恩を売っといた方が後々いいしー?」
「で、旦那一人で来られてもちっとも嬉しくないんですがねィ、名前の安全はアンタに任せてんのになんでそのアンタがここに居やがんでェ」

午後の稽古を終えての風呂上り、部屋に戻ってくると万事屋の旦那が縁側に座って呑気に俺を待っていた。
影になっているとは言え、この暑さだ。旦那は溶けかけたアイスを片手に気だるそうにしていた。

「大丈夫だって、名前ちゃんには神楽と一緒に志村家に泊まって貰ってるし、あんな核兵器娘とメスゴリラが一緒じゃあ襲ってくる奴らの方が可哀想になるわ」
「ま、あそこならストーカー撃退のカラクリもあるみたいですし何かと安心でしょうねィ」
「そーゆーこと、今頃スイカ割りでも楽しんでんじゃねーの?」

旦那の隣に座り込んで、同じように庭を眺める。
この庭ももう見飽きたな、そう思う程にこの一週間は俺にとっては長かった。

「ひとつ聞きたい事があったんですがねィ」
「なんだよ、もうあの馬鹿ゴリさんが全部口滑らしちゃったんだろ?俺の知ってる事なんかたかが知れて」
「なんでホテルに入ったんですか」
旦那の言葉を途中で遮り確信を突く。

すると旦那は眉間にシワを寄せて口を閉ざす。
やはり言えないような事をしていたのか。
それともまだ秘密にしておかなければいけないような事でもあるのか。
まあどっちにろ俺には言えないって事だろう。

「だーかーらーそれは名前ちゃんに聞けっつーのー」
「聞けるもんなら聞きてェですよ、今すぐ…」
遠くを見ても名前は居ない。
毎日毎日思うことはそれだけだ。
こんな近くに居るのに、なんですぐ会えねェ。

「旦那は電話繋いでくれねェし」
「いや、うちに電話されてもねー?名前ちゃんだって仕事行ったり志村家行ったりしてたし」
「チャイナはすぐ電話切りやがるし」
「それは知らねーわ」
「まったく、誰も俺の味方してくれねェんだもんなァ」
そのまま空を仰ぐようにゴロリと縁側に仰向けになった俺を、旦那はちらりと横目で見ているだけだった。

「お前ってドエスで捻くれてて歪んでるし、とてつもない腹黒だけどさー、周りには結構愛されてると思うぜ俺は」
「褒めてんですかソレ」
「お前の事をよく知って理解してなきゃ、こんな事誰も思いつかねーよ」
「こんなの単なる腫れ物扱いでしょ」
「相変わらず捻くれてんねーキミ」

ニヤつく旦那に若干のイラつきは感じたが、今この気分で旦那に対して何かを言うつもりはなかった。
あんなにムカついていた気持ちが、今となってはやけに客観的で、いつの間にか自分の中で折り合いをつけていたのだろう。

「いや、マジでお前は愛されてるよ」
「…旦那に言われても信憑性に欠けまさァ」
ハハと笑って旦那はアイスを頬張り、何もない庭をただ眺めていた。


「あー、そーだ、今日門番いねーのな」
「まさか、この状況でそんな警備薄ある訳…」
「俺が来た時居なかったけど、暑くて倒れたんじゃねーの?そしてマヨネーズ男爵も居なかったし、だから俺勝手にここに入ってこれたんだし?」
「なんですかそれ、俺に抜け出せって言ってるよーなもんじゃねェですか」
「だよねー、まあいいんじゃない?門番いねーし、街もなんともねーし、この暑さだし」
「ま、近藤さんにまだお許しいただいてねェんで軟禁は続きそうですけどねィ」
「そのゴリさんもいねーじゃん?だったらいいんじゃね?」

「後でお咎め受けるのは御免でさァ、それにこれ以上のガキ扱いは懲り懲りなんで」
「いや、こんなチャンスそうそうないと思うけど!?ゴリもマヨも居ないんだからチャンスじゃん!?」
「ゴリマヨが居なくてもザキが見張ってる可能性が大なんで」
「いやザキも居ねーよ!見てねーよ!あいつはその辺でまたミントンでもしてるから!」
「やけに行かせたがりやすねェ、何か裏でもあるですかィ」
「ないからっ!裏も表も何もないからっ!」

旦那のこの分かり易い感じ。ウケるな。
「旦那、もしかして」
「だーー!もう回りくどいの嫌いっ!!行けよ!誰もいねーからさっさと行けっつってんだよ!空気読みなさいよ!?」
「すいやせん、途中から面白半分でからかってやした、ってかアンタ演技下手すぎでしょ、近藤さんといい勝負しやすぜ」
「ほんとお前性格ワリーな!?そしてあんな秒殺ゴリラと一緒にすんな!!」

不機嫌極まりない旦那を置いて、俺はさっさと屯所を後にした。
どいつもこいつもウソが最後までつけねぇ奴ばっかだな。

目指すは志村家。
こんなうだるような暑さの中でも俺の足取りは軽かった。



「なんだあの下手な演技は、結局言っちまってるしよ」
「なんだよ見てたなら助け舟出せよニコチン野郎!」
「バカ言え、俺は出かけたことになってんのにノコノコ出てきたら話になんねーだろ、何の為にお前呼んだと思ってんだ、この役立たずの天然パーマ野郎」
「役立たずだぁ?!この暑い中来てやっただけでも感謝しやがれこの腐れマヨネーズ!」

「だいたいお前がホテル連れ込むとか余計な事すっから事が大きくなったんだろーがよ!?元々アイツにゃ総悟に“少し距離を置きたい”って言わせる予定だったんだよ!こちとら段取り狂いっぱなしなんだよ!」
「ありゃ不可抗力なんだよ!!断じて俺が連れ込んだ訳じゃねーし!何も知らねーくせにグダグダ言うんじゃねーよっ!」

「どうだかなぁ、最終的にあわよくばこのまま…って思ってたんじゃねーのかよ?ああ?万年金欠のクセして女のケツ追っかけてるなんざ侍の片隅にも置けねーな」
「うっせーよ!!お前だって俺が引き受けなきゃ自分がやるみたいな事言ってたくせに!やる気満々だったくせに!お前こそ名前ちゃん狙ってたんじゃねーのかよ!?任務のフリして部下の女のケツ狙ってたよーな副長は今すぐ切腹しろっ!!」
「お前がやれっ!!」
「いーや!お前がしろっ!」

「ちょっとお二人さん、俺の部屋までまる聞こえだよー」
「ゴリラも居たんかいっ!!お前らほんと過保護にも程あんだろ!?」




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