「なーなー、やっぱこれのが良くないかな?」



期待と不安も紙一重



鼻歌交じりに雑誌のページを捲っては、私に指さして見せてくれる近藤さん。
彼は嬉しそうに、そして優しい顔で眉をハの字にして雑誌を眺めてはデレデレとしている。

そんな午後の天気のいい日。
近藤さんの部屋で私はリラックスしていた。
まだ秋口とあって暖かい日が続いていたので、私はその気候と現在の体の状態の事もあって、とてつもない眠気に襲われてもう少しで出そうだったアクビをかみ殺す。

「無難に黄色かなー?」
「やっぱり性別聞いた方が買い物は楽になると思いますけど」
「えー!でも楽しみにしときたいじゃーん!」
ついに寝そべってゴロゴロしてキャッキャし始めたゴリ…近藤さんに少しばかり微笑ましくなってしまう。
こういうとこ可愛らしいんだよな、この人。

「アンタら隊長に見られたらド叱られますよ…」
廊下を歩いてきたのは書類の束を抱えた山崎さんだった。
「え?なんで?」
ゴロゴロしたままの近藤さんが純粋無垢な顔で山崎さんに尋ねた。
「名前さんは局長のお嫁さんじゃないんですからね?沖田隊長の奥さんなんですからね?」
「そんなん分かってるよー」
「じゃあもっと弁えてくださいよ!傍から見てるとアンタらのやり取りが夫婦に見えるんだよ!平和な夫婦に見えるんだよ!」
「いやいや山崎、雑誌を一緒に見てるだけだから!そんな!俺と名前さんがいくらお似合いだからって!」
「んなこと言ってねーよ!」
近藤さんの言うように、私と二人で出産準備に必要なものを買おうと雑誌を見ていただけだ。
それがどうやら山崎さんから見ると異様な光景に見えたらしい。

「どこに赤の他人とマタニティ雑誌読んで子どもの服選ぶ人がいるんですか!!?」
「赤の他人って、俺と名前さんは親戚と言うか…アレだ、家族同然だ」
「アンタの場合は親戚通り越してもう旦那気取りでしょーが!局長でもここまでしてると沖田隊長に怒られますよ!?」
「ただいま戻りやしたーって、昼間っからうるせェぞ山崎ィ外まで丸聞こえなんだよ」
「沖田隊長ォォォ!あ!あの!これはっ違うんですゥゥ!俺はとめたんですよ?!ちゃんと局長に弁えろって注意したんですよ?!でもこのゴリラ、人の話聞かなくて!」
「どーですか近藤さん、なんかいいのありやしたか」
「やはり黄色がいいんじゃないかと名前さんと話してたんだがなー、総悟はどう思う?無難すぎるかなあ?」
「公認だったんかいィィィ!!!」
山崎さんは廊下を盛大に滑るようにズッコケていて、それを総悟は容赦なく踏んでこちらの部屋に入り腰を下ろした。

「いいと思いやすよ、男でも女でも着れる方がいいんで」
「それなんだが、性別はやっぱり聞いた方がいいのかなーっと名前さんと言ってたんだが…総悟はどう思う?俺的にはやっぱり生まれた時に“元気な男の子ですよー”とか言われて感動倍増?!みたいなー!」
「アンタ立ち会う気満々だな」
そう言ってまだ廊下で寝そべったままの山崎さんを踏みこちらに来たのは土方さんだった。

「お、トシ!トシは性別聞いた方がいいと思う?!因みにどっちがいいとかある!?」
ウキウキしっぱなしの近藤さんと淡々と冷静にしている土方さん。
この二人の温度差が激しすぎて見てるこっちが複雑になってしまうほどだ。
近藤さんは毎日がお祭り騒ぎのように、まだかまだかとソワソワしっぱなしで。
それとは真逆の如く、土方さんは今までとなんら変わりのない感じで接してくるのだ。
私はどっちのがいいとかは無いけれど、この二人の温度差に若干戸惑い気味でもあった。

「俺は健康に生まれてくりゃどっちだろうが構わねぇよ」
そう言いながら近藤さんの部屋に入っては、棚から書類らしきものを抜き取っていた。
「副長が一番父親らしいセリフ言ってるゥゥゥ!!」
すかさずツッコミを入れてきたのは先程まで廊下で二度も踏まれた山崎さん。
「土方さん、それは俺のセリフなんで、アンタが言える日は一億万年先の話でさァ」
「はあ?!俺は別に本心を言ったまでだろうが!なんだ一億万年先とかどういう意味だコラァ!!」
「そのまんまの意味だろ、アンタが結婚出来る日なんて生きてるうちには無さそうだねィって話でさァ、だからって名前を架空の嫁替わりにすんのは大迷惑なんでやめろってんでェ」
「んだとテメェ!?もういっぺん言ってみろやァァ!」

「二人ともやめてくださいよ!」
「チェリーは黙っときなせェ」
「チェリー関係ないでしょォォ!?俺だって急に出会いがあってポッと結婚する事だってあるかもしれないじゃないですか!?」
「勝手に夢見てろDTアンパン野郎、世の中そんな甘くねぇんだよ」
「ちょっ!副長まで!?ていうか、なんかあったんですか?!」
「うるせー!なんもねーからだろ!なんもねーからそんな夢見話してんじゃねーって事だよ!馬鹿かお前は!寝言は寝て言え!」
「俺に当たらないでくださいよー!」
「負け犬共が吠えてらァ」
「テメェ!一人勝ちしたと思うなよ!!つーかヤメロその勝ち誇ったドヤ顔!ムカつくんだよっ!!」

「トシ荒れてるなぁ…」
総悟、土方さん、山崎さんの言い合いをすぐそばで見ていた私と近藤さん。
近藤さんはそんな土方さんを見て苦笑していた。
「近藤さんはお妙さんとはどうなんですか?」
「え?どうって?」
「その後進展とか」
「いやーそれはもういいと言うか、なんか俺も落ち着いちゃったって言うか」
そう言った近藤さんは私のお腹をそりゃもう愛おしいそうに見つめていた。

「おい名前、腹の子が女じゃねーことを切に願いまさァ…」
その後で総悟がポツリと言うと、先程まで言い合っていた土方さんと山崎さんも顔を真っ青にして近藤さんを見ていた。

「近藤さん、それだけは許さねぇからな」
「俺も許しませんよ局長…」





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