恋人にしては歳が離れすぎている




私の事情





私自身、見た目は年相応といったところだろうか。
特に童顔でもなければ極度に老けているわけでもない。それでも総悟と並んで歩けば歳の離れた感は見てすぐに分かるようだ。

対して総悟はまだ少年と青年の間。
出会った時より男らしくなったとは言え、元々が童顔の美少年の作りだったためにこの一年で若干大人っぽくなった程度だった。

劇的に身長が伸びたわけでもなく、急に男としての色気が出てきたわけでも無く、なんとなく大人への階段を登っている途中段階と言ったところだろうか。
あと三年もすればきっといい男になるんだろう、と何度かふと考えた事はある。

恋人にしては歳が離れている。
姉にしては顔の系統が違うし、どこも似ているところなんていない。
友人にしても共通点がなさそうな微妙な私たち。
実際とても微妙な関係だったのは確かだ。

毎日のように会って他愛ない話をしたり、からかったりからかわれたり。
それでも急にこの世界にやって来た私としては総悟の存在がとても大きく、大切になっていた。
彼は私の支えだった。
フワフワしている私をこの世界に繋ぎとめてくれているような、そんな存在だった。


そして毎度のように総悟に言われる台詞がある。
「万事屋の旦那はやめときなせェ」
総悟曰く、あんな甲斐性なしのプー太郎と一緒になっても地獄を見るだけでさァ、だそうだ。

私としては銀さんはとてもいい人だとは思う。もちろんお世話になったのもあるし、万事屋の三人と一緒にいると楽しい。
実際、私の中では彼らもこの世界との楔となってくれている存在だった。
けれど、銀さんは恋愛対象としてはどうだろうかと疑問を抱くところだ。

そして土方さんに対しても総悟は色々と言ってくる。
「あれは女の扱いを分かっちゃいねェ、あれの女になった日にゃ悲惨ですぜ」
あんなの顔だけの、中身はマヨネーズで出来た妖怪でさァ、と銀さんに続いて結構本気で酷いことを言っていた。

土方さんに関しては格好いいと思う。
それはもちろん外見で判断してだけれど。
会うとたまに話をするくらいで、ちゃんと話したことはないけど土方さんは女性には結構優しかったりするので中身もちゃんとした人だとは思っていた。
しかし総悟はそれがどうも気に入らないらしい。
事あるごとに難癖をつけては、土方さんから私を出来るだけ遠ざけようとしていた。


そんな奇妙な友人関係を続けていたところ、ある日普通に会話している最中に総悟が何の前触れもなく言った。

「俺にしときなせェ」
初めは何かの冗談だと思った。
いつもからかってくる総悟のことだから、今回も何か裏があっての冗談か罠なんだろうと勘ぐった。
しかし総悟は至って真面目な顔で私はかなり戸惑った。まずなんと返したらいいか迷う。
何と無く茶化してはいけないような気がしたのだ。
急にどうした?今更どうした?何かあった?
色々と言葉は浮かんできたけれど、どれも違う気がしたので私は何も言葉を発しなかった。

冒頭で「土方さんなんかやめといて」と言われたけど、そもそも私は土方さんに憧れはあっても恋心までは持ち合わせていなかった。
話のネタにはよく出てくるけど、私にとって土方さんはテレビに出てくる人並みに遠い存在だったからだ。
何を勘違いしているのか、総悟はやたらと土方さんを気にしていた。


「……え?」
まず私は土方さんを好きだと一度も言ったことがないし、総悟に好かれる理由も女子力も持ち合わせていない。
思い当たる節が無さ過ぎてどうもピンと来ないでいた。

総悟がどうやって恋愛するのかとか、どうやって女の人に惚れるのかとか、どうやって女の人を口説くのかとか、漠然と疑問には思っていた。
今まで一緒に居た時間の中で、総悟はそんな素振りも無く女性の影すらチラつかせなかった。
総悟はどんな人を好きになるんだろうか。
最近はそんな事まで考えるようになった。

少し前に“どんな女の子が好みか”と聞いてみたことがある。
どうせ「調教しがいのあるメス豚」と返されると思っていたその質問に、総悟は意外にも「落ち着ける女」と答えた。
あまりの意外さに、その若さでどんだけ悟ったこと言っちゃってんの、とツッコミを入れてしまった私だったけれど、内心は焦っていた。
まさか総悟にそういった相手が出来たんじゃないかと思ったからだ。

あまりにリアルな返答に、一気にリアリティさが増した。
総悟にそう言った存在がいたら?
私はどうなるんだろうか。
邪魔者扱いにされるのだろうな、と少し淋しい気持ちにもなった。と、同時に嫉妬も混じっていたのは認めたくなかったので気持ちの中でスルーしておいた。
そんな自分にどうしようと思ってしまう。


「まぁ、今は俺のことなんとも思ってなくとも、これから容赦無く口説くんで」

そんな私にこの総悟の言葉は真っ直ぐに心臓を貫いた。




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