「どうした、やけに賑やかだな」





流れに身を任せすぎるべからず





屯所の玄関先で山崎さんと総悟とやいのやいのと言い合いをしていたら、それに気付いたのか隊服姿の近藤さんが顔を出した。

「あ、局長」
「近藤さん、こんにちは」
「おう、名前さんいらっしゃい」
「近藤さん、ちょっと話があるんで部屋いいですかィ」
「おお、どうした総悟」
「名前、行くぞ」
山崎さんを置いて三人で近藤さんの部屋に向かい長い廊下を歩く。

「総悟が改まって話だなんて、なんかいい話な気がしないんだよなぁ」
近藤さんがそう言いながら自室の襖を開けると、少し振り返って苦笑いをしていた。
今まで色々とあったのだろう、総悟が改まって話をすることに少しながら近藤さんは嫌な予感を浮かべているようだった。

部屋に入ると近藤さんは座布団を出し、適当に座ってくれと私たちを促してくれる。
「近藤さん、手っ取り早く結論から言いやす」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!心の準備がっ!」
「そんな構える事でもねェですぜ」
「ていうかコレはアレか、名前さんも居ないと駄目な感じなのか?!」
総悟の隣にまるで保護者のようにして座っている私に対し、近藤さんはなんとなく違和感を感じたのだろう。

「名前絡みの話なんで居て貰った方のが話が早ェと思いやして」
「え?!名前さん絡み?!なになに!どういうこと?!」
「だからそれを今から話すんじゃねェですかィ」
近藤さんは何かにピンと来たのか、一瞬閃いたような表情をした。そしてその後すぐに大量の汗をかき始める。

「近藤さん?」
「いいいいや!お、お、俺だってだだだだいたいは知ってたよ!?しっ知ってたけどっ!まさか総悟がそそそそんな事っ……!もっとその辺はちゃんと考えて行動する奴だと思ってたんだ!いや、この場合は親代わりである俺の責任でもある!だから、その、俺も!責任を取ります!!」
「……は?」
「何を一人で突っ走ってんですかィ近藤さん」
深々と私に向かって土下座をしている近藤さんを宥め、とにかく頭を上げてもらう。

「い、今時できちゃった婚なんて珍しくないし!名前さんさえ良ければ総悟の奴の嫁さんになってやってくれ!ちょっと変な趣味とか趣向はあるけど……すっごくいい奴だから!俺からも宜しく頼むよ!」
折角頭を上げてくれたと思ったら、また近藤さんは深々と土下座体制に入ってしまった。

「残念ながら、まだ子供はこさえてませんぜ」
「は?……ええ?!!」
ガバリと顔だけ上げて、私たちを交互に見ては先走りすぎてまだ理解しきれていないであろう近藤さんが若干パニック状態に陥っていた。
「子供はこれからじっくり作る予定なんで、さすがに俺も順番くらいは守りまさァ」
「え?!じゃあ今回なんの報告なの?!」
「俺たちそのうち祝言挙げさせてもらうんでって話でさァ」
「違うしっ!!」
私が全力で否定すると、近藤さんは更にパニックを起こしていた。

「ちょ、二人の意見が食い違ってんのは何でかな?!」
「祝言はまだ挙げません」
「お、その言い方だと後に挙げる予定ではあるんだなァ」
「揚げ足取らないでよ!」
「事実を言ったまでだろィ」
「そもそも今日付き合い始めたのになんでここまで話を大きくするかな?!」

「ちょっとちょっと!……んん?何?今日付き合い始めたって……どういう事?!」
「そのまんまの意味ですよ!」
「あれ、俺はてっきり……その、二人はとっくの前から……アレ…?違ったの?」
近藤さんを交えて話がとにかく噛み合わない。
どうやら近藤さんは、私と総悟が仲良くなり始めた頃から男女の仲だったと思っていたようだ。


「そっか、その報告だったのか、俺はついに授かったのかと……」
事の一部始終ではあるが、近藤さんにちゃんと話を説明するとやっと本当の事が伝わったようだった。

「早とちりしすぎにも程がありますぜ近藤さん」
「いや、だってだなぁお前たち仲良いし、いつも一緒に居るから誰だってそう思うだろ?付き合い始めたって言われても、俺にとっちゃ今更みたいなところがあってだな…」
やはり真選組では私は総悟の恋人として認識されていたようで、報告に来たものの近藤さんの予想とは全く異なっていたようだ。

「ま、これで悪い虫が付くこともねェだろうし、報告しときゃ俺としちゃあ一安心でさァ」
総悟は一体何を心配しているのか私にはよく分からないまま、この日は屯所を後にした。



「送ってくれてありがと」
長屋の部屋の前まで送ってくれるのはいつもの事だ。
ほんの少し前までは「お前も一応女だから送ってやりまさァ」とか憎まれ口叩いてたような男が今じゃ立派に彼氏面で、少し笑えてしまう。

「入れてくんねェのかよ」
「え?」
「茶の一杯でも出してくれませんかねェ」
私は総悟を目の前にとても悩んでしまった。
三日前の告白をされる前だったらなんの躊躇もなく総悟を部屋に入れていただろう。
現に今までも総悟は私の部屋に何度も出入りしている。

私の仕事が休みの日を狙い、巡回中にふらりと立ち寄ってはベッドを占領し、仮眠と言う名の昼寝をして冷蔵庫を漁って私の楽しみにとっておいたデザートを勝手に食べ帰って行くのも日常茶飯事だった。

別にそれがどうこうと言うわけもなく、私の中でもそれが普通で。
総悟との距離感はそんなものだと思っていた。
が、今この状況はそうもいかないのである。
今では状況が、関係が百八十度変わってしまったのだから。

「えーと…」
「今更入るなとは言えねェよなァ」
私が断りきれずにいると、総悟は隙をついて部屋にスルリと入る。
「そ、総悟……!」
「茶菓子くらいは出してくれんだろィ」
仕方なくいつも通りを装って総悟を定位置に座らせると私はお茶を淹れるために台所へ行く。
用意をしている最中もずっと雑念のようなものが頭の中をいっぱいにした。
考えてはいけないのに、考えてしまう。意識してはいけないのに、意識してしまう。

「名前、安心しなせェ」
「え?!」
気が付くと総悟は背後に居て、そのまま後ろから抱きすくめられる。
総悟の匂いは慣れていたはずなのに、こんな近くの総悟は初めてだった。いつもは華奢に見えるこの体も、実はこんなに男らしかったのかと背中越しでも驚く程に伝わってきた。

「優しくしまさァ」
そう耳に囁かれた言葉が心臓を貫いた。
総悟がこんな声でこんな言葉を囁くなんて。
総悟からこんなに男を感じる日が来るなんて。
私は、何だかとても複雑だった。



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