ー指先だけ、そっと 02ー


しばしの沈黙の後、少女の瞳が揺れる。ひどく困惑した顔でまじまじとトムの事を覗き込んだ。
「"こ、言葉、わかるの?"」

「"わかるよ、僕も喋れるから"」
シューシューと声とも取れぬその言語でトムは返事をする。
驚きに満ちた目の彼女は震える声で口を開いた。


「……あなたは、ミュータントなの?」
始めて溢れた声は玉のように跳ねた。その琥珀を思わせる目も絹のような髪も白魚の如き肌もトムを高ぶらせるには十分なものだ。ただ声が聞けた。それだけでこんなにも胸が高まることがあるのだろうか。恋をと呼ぶには余りにも大きく荒々しい感情に困惑する。自分の中にこんな激情が流れているなんて思いもしなかった。
それにしてもミュータント、とはなんだろう。
トムにはわからない。

「ごめんよ、僕には分からない。」

「……そっか」

小さく呟くと少女はトムに興味をなくしまた部屋の隅でうずくまった。
最初と違うところといえば見向きもされていないというところだろうか。話がしたかった。始めてこんなにも強い感情を抱いたのだ。どう発散すればいいのかも分からない。目の前にいる少女がそうさせていることしか分からない。またこちらを向いて欲しくてトムは言葉を続けた。

「でも、僕の周りでは変なことがおこる。きっと君の仲間だよ。」









また、沈黙。でも明らかに違うのは少女が言葉を探して必死に考えていることが伝わってくることだろうか。
「わたし、は、ティナ。
ミュータントで、わたしはスネーカー(蛇人間)ってよんでる」

「スネーカー?」
ようやく喋った少女にトムは首を傾げた。どう聞いても聞いたことのない単語ばかりが飛び出すのだ。ミュータントもスネーカーもトムには分からない。ティナの言うことは分からないことばかりった。

「からだの一部を蛇みたいに変えれるの。
ほら…」

そういってティナはおもむろに服をめくった。
白く細い腕にだんだんと鱗が浮き上がってきた。てらてらと光るソレは腕から胴体に侵食していき顔を覆うまで静かに広がっていく。

「これは…、」


「わたしは、蛇人間、なの。
……やっぱり、こわい?」
トムは徐ろに手を伸ばす。始めのように拒まれることもなくティナは静かに目を閉じた。そっとその肌に触れるとひんやりと冷たかった。

「…怖くないよ。僕は綺麗だと、そう思う。
僕はトム・リドル、"よろしくね"」

「……ありがとう」

ティナの頬を撫でていたトムの手に雫が溢れた。ティナはその美しい双方の目からポロポロと涙をこぼしてトムを見つめている。その目は熱をはらんでいてトムは動くことができなかった。
仲間ができたと言わんばかりにトムの手を握った。それに対しトムもその異形の手を握り返す。蛇のように冷たいティナの体温が心地よくて、トムは目を細めた。






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