出逢い

 立ち止まっていても埒が開かないのでこれからの事を考える。盗賊は意識が無いので放っておき、少し歩いて適当な木陰に座った。

「……舞さ、盗賊達が言っていた事、どう思う?」
「え?」
「さっき聞いた街の名前。ダリルシェイド、ハーメンツ、アルメイダ。本当ならここはテイルズ……テイルズオブデスティニーの世界だ」

 だとしたら、この広い草原も、奴らの有り得ない髪の色も説明がつく。と言うか俺の中じゃもう確信事項だが。

「だ、だってあれはゲームだよ!?」
「でも明らかにここは日本じゃ無いだろう。そうとしか考えられない。お金の通称もガルドだったし」
「信じられない……」

 呆然と舞が呟いた時、

『彼女の言う通りよ』

 凜とした女性の声がした。

「誰だ!?」
「何!?」

 とっさに辺りを見渡すが、向こうで伸びてる盗賊達は別にしても人影はない。それに今のは脳に直接響くような感じだった。手元を見る。俺の視線に釣られて舞も下を見る。

「……やっぱり」
『鋭いわね。多分当たり』
「ソーディアン、だな?」
「嘘……」

 普通の日本刀にあるはずのない、直径10cm程のレンズ。声と共鳴するかのように淡い光の強弱が見えた。
 疑問が解消されれば、受け入れるのは容易い。

「へー、じゃあ声が聞こえているってことは俺達にマスターの素質があるんだ。道理で扱いやすいと思った」
「でもソーディアンに日本刀なんて無かったよね?」
『まぁ歴史上は、ね』
「歴史上は? ひょっとして……」
『自己紹介が遅れたわね。私は雫。オリジナルの人格は日本からトリップした日本人よ』

 声しか聞こえないはずの手物のソーディアンが微笑んだような気がした。

「俺たち以外にも日本人が……。あ、俺は天宮空です。こっちは」
「妹の舞です。雫さんはお幾つですか? 何となく、ですけどおねぇより年上ですよね」
『雫でいいわよ。あなた達十五、六歳くらいよね? オリジナルもそれより少し年上だったけど、普通に喋ってちょうだい。空と舞も日本から来たってことでいいのかしら?』
「ああ、俺は十六歳。舞は十四歳。住んでいたのは日本」

 雫さん……雫の言葉に甘えて俺達の方も言葉を砕く。声しか聞こえないけれども優しい印象を受けた。

「にしても驚いたな。俺達以前にここへ来た人がいたとは」

 それも、ソーディアンになってるだなんて。

「ねえ、なんで歴史上に雫はいないの? ソーディアンとして残っているのに」
『地上軍にいた当時「何も知らない小娘に軍の何が解る」ってふんぞり返ってる上層部に言われたのよ。私最初は不審者扱いだったし』
「地上軍にいたのか。にしてもふんぞり返ってるって……」

 軍の上層部だろ? それってつまり偉い人なのでは。その人相手に凄い言いようだな。

『ここだけの話、ハロルドなんか相当煙たがられてたのよ? 訳の解らん金ばかりかかる研究だって。上層部は頭が堅いったらありゃしない。でもリトラーやカーレルが掛け合って、私をハロルドの助手にしてくれたの。で、実験も兼ねた試作ソーディアンの被験者が私』

 後の時代に私みたいに来る人がいるかも、って思ったからね。と雫は続けた。

『試作だけど完成品とほとんど性能は変わらないし、千年経っても衰えてないはずよ?』
「作られてから千年経っているんだな」

 テイルズの、デスティニーの世界なら今どの時間軸なのだろうか。千年経過しているならスタンかカイルの時代に当てはまっているかもしれない。

『いつの間にか盗賊達の手に渡っていて、けど声をかけても聞こえる人はいないし、商品だって言う割りに扱いは雑だし。コアクリスタルを傷つけられちゃたまったものじゃないと思ってしばらく閉じて休眠状態だったんだけど、あなた達の声で目を覚ました』
「戦闘中に聞こえたのは雫の声だったんだな。助かったよ」

 あのまま何も考えずに動いていたら。そう考えるとゾッとした。

『休眠する前に聞こえたけれど、かの有名な客員剣士は現在活躍中みたいよ。盗賊達の顔ぶれもほとんど変わっていないし、彼らの話から察するに、ここはまだ運命の物語が始まる前の時間だと思う』

 なるほど。主要キャラクターにどうにか会って物語に加わるか、それとも地道に元の世界に帰る方法を探すか。ここに来た理由が分からない今、大まかな選択肢は二つだ。

『ねえ……色々と話したけど、あなた達はこの世界をどこまで知っているの?』

 ゲームの話を知っているかどうかということだろうか。

「デスティニーは2までやったから、キャラクターもストーリーも知ってるよ」
『そう。千年前に関しての歴史は筋書き通り。天上王ミクトランとカーレルが刺し違えて天地戦争は終結。私がいるからといって歴史は何一つ変わってない』

 例えば、その刺し違えたカーレル・ベルセリオスのことを変えようと思わなかったのだろうか。不躾とは思いながらも聞いてみた。

『思ったわ。私に出来ることはやってみた』
「それでも、歴史は変わらない……あれ、けどソーディアンとしての雫の存在は」
『オリジナルはソーディアンチームに加わっていないし、歴史には残ってないの』
「そうだったのか……」

 俺がそう呟いていると、それまで黙って会話を聞いているだけだった舞がギュッと俺の服を引っ張った。

「ねえ、誰か来るよ」

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