とある日のこと

「ねえ空、放課後カラオケに行かない?」
「あー、っと、ごめん。今日は早く帰ろうと思って」
「そうなの? 今日は妹ちゃんが夕御飯を作るって言ってたから空は時間が空いてるかと思ったのに」
「舞が当番なのはそうなんだけど、俺は俺でやりたいことがあるんだ」
「そっか。ならまた今度誘うね」
「悪いな」

 俺の名前は天宮空。俺、って言ってるけど十六歳の花の女子高生。二歳年下の妹と二人で暮らしている。

「空? 何してんの?」

 俺が「イェイ!!」とポーズを決めていると、友人の冷静な声が刺さった。

「んー? お茶の間の皆さんに軽く自己紹介を……」
「わけわかんない」

 うん。わかったら凄い。
 しかし最近の子供は茶の間と言って伝わるのかね? リビングって言わないと分からないかもしれない。ハッ! これは日本文化の危機か?! 血で血を洗う戦いに終止符を打つ伝統文化【秘技、ちゃぶ台返し】の正当継承者はいないのかっ……!! どうでもいいけど飛んでったお皿や飲み物や料理は誰が片付けると思っているんだろう。まさか! ここで静かに事の行く末を見ていた母上様の登場か──

「おーい、空? 帰るんじゃないの?」
「あ、うん」

 俺は友人の声に飛んでいた思考を戻し、鞄に教科書やノートなどを入れた。校門まで一緒に行こうと言ってくれた友人と今日出された宿題や最近話題のテレビ番組の話をしながら階段を降りて生徒玄関を出る。
 そして現在自転車を漕いで下校中。因みに交通ルールと法定速度は守ってます。みっともないから立ち漕ぎはしない。ところで自転車の法定速度って毎時何kmだろう。この場合、電動アシスト機能は付いていないものとする。競技用自転車を漕ぐ人はすごいなぁ。うん、また話が逸れた。長い長い下り坂でも陽の当たる坂道でも線路沿いの下り坂でもないけど自転車に乗っていると別のこと考えがちになるよね。俺だけ?
 思考を飛ばしつつ赤信号で自転車を止めると、目の前を大型トラックが通り過ぎて行った。考え事をしながらでもちゃんと前は見ないとね。

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