ガツン、と手に持っていた刀が吹き飛ぶ。
体のあちこちが痛い。前が見えない。
だが、目の前にあの人の敵がいる。
ふらりと体が傾きかけるが、気合いで倒れないように踏ん張る。
主を守るためとはいえ、自分の体を張るだなんて私らしくもない。


「おろかだねぇ。」

それは私にも言えること。
愚かなりに奴を気に入っていた私には相応しい最後だろう。
あの人を庇うつもりはなかった、薄情だったはずの私は奴より愚者だろう。
幼い頃から一緒にいた我が主様。
どこをどう食い違ったか、歪な主従関係になってしまった我が主様。
私の事をほんの片隅にでも覚えておいてください。
何時も通りにいらない部下は切り捨ててください。
だからそんなに取り乱そうとしないでください。
私はいつか殺される運命なのでそのまま踏み潰してください。

「……様。敵に弱みを見せないでくださいよ。」

「伊織死ぬのか。」

そうみたいですよ。
その言葉は音になることなく、ぐらりと体が傾く。
天も地も分からない。痛みなど分からなくなってきた。目の前はくらい。
死ぬのは怖くないが、守れなくなるのは怖いなぁ。
でもまぁ、愛刀はきっと折れてしまってるだろうし、無理に生きても守れないだろう。
騒がしい声も聞こえないし、これで本当に人生に幕をとじるだろう。
案外悪くない人生だった。そう。





「……わるく……ない……。」








死にかけた命に生きることを教えてくれた貴方に使えて良かった。
貴方の駒でよかった。
先に死ぬことが唯一の悔いだが、先に地獄で待っていようと思う。
それぐらいしかできないから。



それでは皆様さようなら。
地獄でお逢い致しましょう。







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