01 君に出会う東京競馬場


「あぁー!畜生、今回も駄目だったかぁー!」

秋の東京競馬場、天気は快晴。レースは序盤、優勢だったが後半徐々に失速し、見事に抜かれた。握り締めたハズレの馬券を俺はポケットに突っ込み、天を見上げる。あーあ、本当についてない。競馬もパチンコもここんとこハズレクジばっか…。

ふと、隣にいた人に目をやった。ツバの広い帽子を被った長い髪をした女性で、一眼レフでひたすら馬の写真を撮る。……こんなおっさんしかいない東京競馬場で、一人で写真撮影とか、度胸あるなー。俺が物珍しそうに顔を覗き込むと、お姉さんは身動ぎした。

「あ…すみません、お邪魔しましたね。」
「いえいえ。お姉さん、競馬しに来たの?」
「いえ、初めてで。写真を撮るついでに、競馬も。」

お姉さんが買った馬券を俺に見せる。……見事に当たりの馬券だった。初めての競馬であたりを出すとか、お姉さんなかなかやるね〜。俺が当たり馬券を見て遠い目をすると、お姉さんは話を続けた。

「私、乗馬をしているんですよ。だから馬が走るのを見ると、落ち着くというか…美しいですよね。」

広いツバの帽子を取り、お姉さんが俺を見る。えっ、う…うわぁー…かなり美人じゃね!?えっ、なにこの運命の出会い!?久しぶりに女の子と話した!やばっ…美しいのは馬じゃなくてアンタだろ!

「う、美しい…ね…。」
「そうですよね、本当に綺麗。」

バクバクと心臓の音が煩くて、ちらりと横目で見ればお姉さんはまた一眼レフで写真を撮る。…と言うか、お姉さん、昼からビール飲んでるんだね。手すりに呑みかけのビール置いて、写真撮る間に呑むとかおっさんだよ!?そのギャップも可愛いけど!

「あ、あのさ、お姉さん一人?」
「えっ、はあ…一人ですけど…?」
「もし良かったら、この後少しお茶しない!?」

お姉さんは少し怪訝な顔をした。しまった!多分この美人さんはこの誘いの文句に慣れている!そして多分、自分の時間を邪魔されて、すげーイライラしてそう!俺は誘ってみたものの、動揺してしまい、お姉さんはちょっと眉間に皺を寄せて答えた。

「あの、私、この後に用事が…」
「あーあー!あのっ、変な意味ではなくて、馬の未来について語りたいというかっ!!一人で競馬場来る女の子って珍しいからさ、どんな気持ちで来てるのかなって、馬俺も好きだし、馬を通して色々話しできれば…ってただ馬友達欲しいだけなんだけどね俺!」

俺が早口でまくし立てると、お姉さんは笑い出し、俺は目を瞬かせた。まさか、お姉さんの笑いのツボに入るとは。

「ははっ、ふふふっ…!」
「えっ、いやーお姉さん?そんな楽しかった?」
「だって、君、すっごい必死になってるんだもんっ…ふふっ…!」

誰だか知らない、初めて今日出会った。しかも、競馬場とかいう、ムードの欠片もない場所で。

「馬友達なら、良いですよ。」

馬券当てた時よりも、嬉しいかも。







ALICE+