09 熱い朝



「……今日は目玉焼きで良い?」

一松が横になりながら、私に問いかけた。まだ火照った身体は冷めなくて、はあっと吐息交じりに答えたら、ごそごそと脱ぎ捨てたパジャマを着る。朝から何をしているかと聞かれたら、うん、まあ何と言うか、そんなことだ。

最近一松は朝から私を抱く。夜は疲れてるから、朝の微睡みの中で私を優しく抱くのだ。この間妹か弟が欲しいって言われたことを大分気にしているな。私は火照った身体を冷ましながらぼんやりと一松の着替えている姿を見つめた。まだ娘はすやすや眠っている。

『名前は欲しい?』
『え?』
『二人目、欲しい?』

一度は死にたいって言った私だけど、今目の前にある幸せに私はただ頷くことしかできない。必要として、必要とされる人生が幸せだなんて気づかなかった。少なくとも、一松に出会うまでは。

『私は一松の子ども産みたいよ。』
『…うん。』
『だって好きだから』

貴方が、好きだから。
優しく唇を吸うのも、名前と呼ばれるのが気持ち良いのも、全部一松が好きだからだよ。

『ねぇ…』

抱き締められながら、一松が囁く。

『幸せ?』

そうだよ、と答えたら、一松は笑った。そんなこと言わないでよ。幸せに決まってるから。


「名前」

ハッとして、私が一松を見れば、着替え終わった一松が私に服を渡す。

「くるみ起きそうだから…服着て。」
「うん。」

娘が伸びをして、目を擦り出す。これはもうすぐ起きますよというサインだ。私は急いで服を着て、娘の頭を優しく撫でた。一松はゆっくり私の後ろに膝を下ろし、私を抱き締める。

「起きちゃうよ?」
「…うん。」
「恥ずかしいからダメ。」
「…うん。」
「ねぇ、一松〜」

私が幸せになるなんて、知らなかった。少なくとも、あの日の夜までは。



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