13 懐かしい日



結婚式の日は、お金もないからカジュアルなウェディングだったけど、松野家の皆さんは大号泣だった。お義母さんとお義父は「早く孫の顔見たいわ」と涙し、兄弟たちは「抜けがけ正直羨ましいけど幸せにな。」とそれぞれ涙した。

皆が私たちの不思議な馴れ初めを知っていたからかもしれない。投げかけられたのは「幸せに」と言う言葉で、その一年後に一松の子どもを妊娠した。

仕事をしながら激しいつわりに見舞われ、正直死ぬかと思ったけど、一松がいつも心配してサポートもしてくれたから、お産までなんとか過ごすことができた。

産まれてからは一松の方が大変な毎日を過ごしていたかもしれない。仕事にも復帰し、育児は殆ど一松に任せきりになってしまったから。でも、一松は一松のペースで頑張ってくれた。時々あの元気な兄弟が交代で世話をしに来たり、お義母さんも孫の誕生に幸せを噛み締めていた。

「ぱぱーっ!」

愛娘のくるみが走って一松に抱きつくと、一松はひょいと愛娘を抱き上げて腕に収める。最近忙しくて、デートとか二人でゆっくりしたこともなかったかなぁ。なんて一松を見上げれば「何?」と返された。うーんこうして見ると大分パパ業が板についてきたかも。

「ぱぱっ!さっきへんなおじさんいたっ!」
「えっ」
「なんかーこうえんではっするまっするっていってた!」
「……それ、多分十四松」
「ハッスルハッスル!マッスルマッスル!ドゥーン!!!」

……粋なり視界いっぱいに十四松くんのアップが映し出される。私がベンチから後ろにひっくり返ると、くるみが「ままたおれたー」と叫んだ。

「……何してんの」
「アハッ!ひっさしぶり〜名前ちゃんに一松、それにくるみちゃんっ!」
「じゅうしまつおじさん、げんきー?」
「超超超超超超超元気だよーっ!ね、野球やる?くるみちゃん?」
「やるっやるっ」
「おい待てヤメロ。お前殺す気か。」
「えっ?何言ってんの野球だよ野球ー!」
「くるみちゃんやきゅうしってるよ!」
「お前の野球は野球の範疇を越えてる。」
「まっ、パパは気にしないでやろーぜくるみちゃん!野球ドゥーン!」
「うんっ」
「ほいじゃいくよー!」

はらはらしながら見守る一松。それを知らずにくるみは楽しそうに十四松くんに向かってボールを投げた。

「じょうずになげたよー!」
「じゃあ十四松おじさんも上手に投げるねーえーいっ!」
「ぼーるつかまえたよっ」
「あっ、上手だねーくるみちゃん!」

……ちゃんと手加減して十四松くんはやってくれてるじゃないか。それを見てほっとしたのか一松はまたベンチへ腰掛ける。

「案外、向いてるのかも。」
「えっ、なぁに?」
「子どもだから…子どもの相手。」

これから月に何回か、キャッチボール遊びも良いかもしれない。



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