15 おつかいの試練



「……これが地図だよ。」

目的地を書き記した紙を小さなリュックサックに入れ、お金が入ったコインケースも入れてあげた。くるみは俺とお揃いの紫のパーカーを着ると、嬉しそうにスキップする。

「買い物するものは?」
「えっとーれたすいっこでしょ、とまといっこでしょ、とうふいっこでしょ、じゃいこでしょ。」
「じゃいこじゃなくて、じゃこね。」
「うん、じゃっ!ぱぱ、いってきまーす!」

やる気スイッチが入っているのか、急いで靴を履き、玄関へ向かう。その様子をトド松がジッと撮影し、俺は不安でくるみの後姿を見つめた。

「じゃあ、ここから先は僕たちに…って一松兄さん、何で帽子とかマスク被ってるの?」
「ついて行く…不審者に会ったら大変だから…。」
「へ…へぇ…なんかもう実の父親が不審者っぽいけど、ま、まぁうん、隠れながらのんびり行こうよ。って言うか確実に不審者だけどね!」

急いで戸締りをして、玄関から出ると、ちょうど横断歩道を渡るくるみを見つけた。手をしっかりあげて、急いで渡っている。そんなに走ったら転ぶってば!俺は急いでくるみの後を追いかけた。

「まーまー、一松パパ!ここは耐えて!」
「…チッ」
「あっ、ほら、最初のお店に着いたよ!」

と言うか、さっきから橋本にゃーのアイドルコスプレをしたチョロ松とか、ジャスティンビーバー気取りしたカラ松の痛いコスプレが気になるんだが。その姿で愛娘の前をうろついて欲しくない。だが、愛娘は一切その光景に目もくれず、目的地の八百屋に辿り着いた。…流石、俺と名前の子ども。

「はいよ、らっしゃーい!松野さん家のお子さんだねー!」
「うん、あのね、くるみっていうの。ぱぱはいちまつぱぱで、ままは名前まま。おとうとといもうとはもうすぐできるの。」
「へぇー!そうかい!」

…いや、何言ってるの!?俺は眩暈がして思わず頭を抑えると、「松野さん、お盛んなのね。」と、トド松がにやにや笑うからとりあえず殴った。

「れたすととまと、ください!」
「ははっ、良い子だねー。じゃあ、これもサービスしよう。自然薯だよ、とても精が出る野菜だから、みんなで食べてね。」
「ありがとー」

八百屋のおじさん、要らない気を回さなくて良いから。って言うか俺、もうあの八百屋で恥ずかしくて二度と買い物行けない。トド松は「ナイスくるみちゃん!おつかい第一関門クリアー!」と話している。デカい自然薯を持って歩くくるみは、大分歩きにくそうだ。はらはらしながら見守っていると、歩くのに夢中になって、次の豆腐屋の前を通り過ぎた。

「ち、違う!そこは中間地点の豆腐屋の前!」
「あーっ、もう一松兄さん煩い!」

俺は急いでくるみの後を追いかけるが、トド松がそれを阻止する。そうこうしてる間に、ジャスティンビーバー気取りのカラ松がくるみに話しかけた。

「Hey,girl!」
「えっ…」
「Are you lost? Oh…very sad.」
「えっとーなにいってるのかわかんない。」

…なにあの格好はジャスティンビーバーだけどグダグダの英会話力!!駅前留学してからせめてコスプレをしろと言いたかったけど、もうニートの手前何も言えなかった。

「Sometimes…We lost our way. But,now !! You don't lost way !」
「えっ、な、なんかこわい…このひと、こわいよぅ…ぱぱぁ…」

くるみが怯え出したため、俺は居ても立ってもいられず、くるみの側に駆け寄ろうとしたが、それよりも先にチョロ松がくるみの前にやってきた。あの不気味な橋本にゃーのコスプレで。

「迷子の迷子の子猫ちゃんかにゃー?」
「っきゃああああ!!!!おばけぇええっ!!」

全速力で駆け出したくるみの姿を見て、トド松が爆笑した。……いや、今のは確かに面白かったけど!でもあれじゃあ絶対に誰かにぶつかる!と、思った矢先にぶつかった。

「いたいっ!」
「おおっと、大丈夫?」

なごみ探偵おそ松と、21世紀野球少年十四松だった。くるみは「おばけいた…」と震えながらなごみ探偵に言うと、なごみ探偵は「おーっ!この時間帯は出る時期だからなっ!」と至極当たり前に言う。

……いや、わけわかんねぇよ!?
出る時期って何!?

「おじさん、たんていさん?」
「おぅ、探偵!なごみのおそ松って呼ばれてるんだ!」
「くるみもしってるよ!みためはこども、ずのうはおとな、そのなもめいたんていこ「おーっと!番組が違うよ!くるみちゃん!」
「アハッ!で、今くるみちゃんはどこいるのかな〜?地図で確認してみたらっ?」

思わぬところで十四松のファインプレー。くるみは俺が書いた地図を広げ、場所を確認すると「もしかしたら、おみせよりもさきにいっちゃったかも…。」と不安そうにおそ松を見た。

「だいっじょーぶ!!俺たちと行こうぜ!ドゥーン!」
「えっ、ほんとー?」
「おぅ!とりあえず、そこのコンビニに寄って、お菓子買うぞ!チュッパチャプスとガリガリくんとうまい棒な!」

……いや!それ買い物リストに含まれてないから!何なごませようとして無駄使いさせてんの!?本当おそ松兄さんクズだな!!

「でも…それだと、くるみおかいものできなくなっちゃう…」
「えっ」

愛娘の思わぬ成長を垣間見て、気が付いたら俺は涙が溢れていた。知らなかった。いつも世話をして、まだまだ手が掛かると思っていたけど、ちゃんと成長をしていた。

「ちょ…一松兄さん、泣き過ぎだから…。」
「………っ…」
「む、無言で泣くのやめてくれない?こわい!」

トド松を無視し、娘の様子を見つめていると、なごみ探偵と野球少年と一緒に歩き出した。どうやら目的地の豆腐屋までそのまま向かうらしい。……良かった。俺は安堵した。

「とうふやさん、ついた!」

目的地に着き、くるみは大きな声で店のおばさんに言う。

「おとうふみっつください!」

いや、豆腐は三丁も要らない…。
多分今まで色々あったから、何丁豆腐を買えば良いのかも忘れてしまったのだろう。まぁ、目的の物は買えたけど、なごみ探偵と野球少年もこういう時アドバイスしろよ。

豆腐を買った後、道を右に曲がるのだが、左に曲がり、案の定迷子になった。しかし、再び似非ジャスティンビーバーとおばけの出現により、辛うじて右折に成功し、目的地の魚屋に辿り着く。看板には「魚忠」の文字。

「はぁーい!あらっ、くるみちゃん!いらっしゃーい!」
「あっ、ととこちゃん!」
「相変わらず可愛いわねっ。ま、私の次に可愛いけど!」

…子ども相手に何を言ってるのこの人。まぁ、可愛いからしょうがないけど。

「ところで、何を買いに来たのかしら?」
「じゃいこ!」

その言葉を聞いて、トト子ちゃんが固まる。一瞬にして、静寂が訪れた。


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