02 居酒屋告白



「おそ松兄さん、最近誰とメールしてるの?」

トド松が俺に聞いてくるが全ての質問に俺はガン無視。名前ちゃんとメールすることが最近の日課である。あの東京競馬場で出会った、名前ちゃんは某有名企業勤務のエリートキャリアウーマンだった。聞くところによると、土日は趣味の乗馬をしたり、クラシック音楽を聴いたり、一人で居酒屋にふらりと立ち寄る時もあれば、旅行することもあるらしい。女の子には珍しい、群れをつくらない女子だった。そのスタイルは仕事場でも貫いているらしい。クールでぶれない名前ちゃんに、俺は一瞬で骨抜きになった。…抱いて欲しい。

「はー…名前ちゃん可愛いよぅ…」
「だっ!?誰!?それ女の子だよね?」
「いやー東京競馬場で最近出会ってさ、その後お茶して、今度居酒屋行こうって話になったんだけど、超クールビューティ!見てこの返事のそっけなさ!神!」
「う、うわぁ…絵文字もスタンプも何もなし。ってか事務連絡みたい。兄さん、こんな女の子タイプだっけ?」
「いいの!長文で長々返事する女子より、一行でストレートに内容送る女子の不器用さが改めていいの!」
「不器用ってか、面倒なことはやらない主義の女の子なんじゃない?このタイプ。」
「今度会うの楽しみだな〜さっ、パチンコ行こう〜っと!」

ガラガラと戸を開けば、天気は快晴だった。あー秋の昼間からやるパチンコは格別だね!俺はスキップしながらパチンコへ向かい、見事に大負けした。



***





「えっ?!名前ちゃん彼氏いないの?!」

チビ太のおでん屋でぐびぐび熱燗を呑む名前ちゃんの横で、俺は箸を思わず落とした。

「……彼氏要らない。だって殆ど自分一人でやってけるもん。」
「えっ、あー…あ、そ、そっかあ!」

いやーお姉さん、多分お姉さんは仕事場でたくさん修羅場やらなんやら経験して、だからこそクールなんだろうね。そりゃそんなに冷静に仕事して、ある程度の収入があって欲しい物も買えて、趣味が充実してれば男なんて要らないよね!

「もったいねーな!名前ちゃんみたいなべっぴんさんがよ!」

ちょっと待てチビ太、名前ちゃん口説かないで。アホなの?名前ちゃんは俺が見つけたクールなお姫様なの!例えて言うならアイスクイーン!氷の女王!って、世間知らずなお姫様よりも名前ちゃんは女王様がしっくりくるか。

「私、やりたいことあるんですよーたくさん!」
「ヤりたいこと!?」
「まず仕事で新しいプロジェクトの参加、資格取得、海外留学、国内で乗馬トレッキング、エンデュランスの参加に、居酒屋放浪…それと」
「はー。女の子の夢にしちゃ、そりゃ野心家だなー。」
「名前ちゃんさ、好きな人とかいないの?」

酔った勢いで聞いてしまった。
お願い頼む頼む!好きな人いないでくれ頼む!

「いないよ?」

っしゃあああ!男に興味もないし、当分変な虫付くことはなさそうだ!これってやっぱり運命!!こんなところで名前ちゃんに出会えるなんて本当ラッキーだよ!

「でも、前に好きな人はいたよ。」
「…え?」
「元気に頑張っていて欲しいなって…そう、思う…。」

名前ちゃんのクールな横顔が、一瞬曇った表情を見せた。あー…多分、これ…忘れられないめちゃくちゃ好きな人がいたパターンのやつ…だわ…。何それ!?俺が名前ちゃんの心の隙間に入る余裕全くなさそうなやつじゃんこれ!!

「そ、そいつ…ってさー…えーっと元彼氏?」
「彼氏じゃなかったけど、彼氏みたいな感じだった。」
「そっかあ!」

そっかあ!じゃねーよ俺。彼氏じゃないけど彼氏みたいって、それってテラハ?テラハな感じ?

「今はもう結婚しちゃったからさ、会えないけど。でも、本当…結婚したいなって、私思ってたの。その人だけね。」
「あー…」

名前ちゃんは、熱燗を呑み干し、おかわりを頼んだ。ちくわ最高!と元気そうに振る舞うけど、やっぱり無理してる。

「だから、私、結婚しない。この先好きな人もできないし、後は穏やかに淡々と仕事して生きるだけかな。」
「そうかー…」

俺は居酒屋でがっくり項垂れる。
なんだよ、期待してわくわくしちゃった俺、片思いする少女漫画のヒロインみたいじゃん。

結構名前ちゃんはその後に酔ってしまい、俺はタクシーで無事に家まで送り届けた。何も手を出さなかったよ。名前ちゃんも酔ってても足元おぼつかないくらいで意識ちゃんとあるしね!

「それじゃ…おそ松さん、ありがと…」
「うん、名前ちゃんも明日も仕事頑張って。また連絡する。」


……これだから童貞は嫌になるよね。



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