03 懐かしい顔




「あっ」とくるみが大きな声を出して立ち止まった。僕のパーカーの裾をぐいぐい引っ張って、指をさす。

「おそまつおじさんだー!」

僕が顔をあげると、娘の指をさした先にはおそ松がいる。

「よー!ひっさしぶり、くるみちゃーん!」
「おそまつおじさん、おひげいたいー!じょりじょりするー!」
「久しぶりに会って酷くない!?酷くないですかくるみちゃん!!」
「……娘に触るな。」
「一松!お前は相変わらず兄貴に厳しすぎ!お兄ちゃん泣いちゃうっっ!」
「……で、こんなとこで何やってんの。」

ここは主婦と主夫の味方である、アカマツ商店街ですけど。と、ジロリと兄を睨むと、兄であるおそ松は「いやーパチンコ帰りでさ。」と相変わらずのクズっぷりだった。粗方、パチンコですって、その帰り道腹でも減って商店街で安いコロッケでも買いに来たんだろう。

「なー悪いけど金貸して「ないから。うちには一銭の余裕もないから。カツカツだから。猫も娘もいるし。」

僕が一蹴すると、おそ松は「ちぇー」と悪態をつく。娘は「ぱちんこってなに?」と俺のパーカーを引っ張った。

「一松ぅ〜お前変わったよな。」
「……まあ。」
「名前ちゃんに出会って、結婚して、子ども産まれて、超変わった。母力が半端ない。主夫力と母力が。」

……お前は、クズ力が半端ないと言ってやりたかったが、ここは娘がいる手前、もう何も言わなかった。娘の手を引き、「……じゃあ。」と急いで目的地のスーパーを目指そうとすると、おそ松はぐいぐいっと肩を引っ張った。……まだ、何かあるのか。相変わらずしつこい兄貴だ。

「まあまあ、幸せそうで何よりだよ。」
「……はあ。」
「一時期は凄かったもんね、名前ちゃんも。」

僕が無言で頷くと、おそ松は「あっ、くるみちゃん、これ食べる?」とへらりと笑いながらくるみにコロッケを差し出した。さっき買ってきたばかりのコロッケらしい。くるみ一人では食べ切れないので、僕とくるみでコロッケを半分にする。こういうところでいちいち兄貴っぽく振る舞うの、やめてほしい。

「おいしーね、ぱぱ!」
「……ん。」
「いやー、一松が父親とか最初はかなり不安だったけど、ちゃんとパパらしいじゃん!」
「……いや、もうパパ三年もやってるんで。」
「ええっ!?さ、三年も経ったっけ!?やべーマジ時の流れやべー俺三年も何もしてねー!!一年くらい経った感覚だったわー!」
「……赤ちゃんの時から大分成長してるでしょ。それにもう保育園上がってるし。」
「あのね、ねんしょうさんだよ!」

くるみが愛らしい瞳でおそ松に言うと、おそ松は「大きくなったねー」と娘の頭をくしゃりと撫でた。

「もうくるみちゃんはおねえちゃんだから!」
「ええっ!?二人目っ!?二人目でも出来たの!?一松パパは夜に名前ママと頑張って…グフゥッ!!」
「あのさ、娘の前で変なこと言わないでくれない?あと、お姉ちゃんって意味は、もうここまで大きくなりましたよっていう意味だからっ!」

わなわなと拳を握り震えていれと、おそ松は「あっ、俺そう言えば早く家に帰らなきゃ!」と叫んで帰っていった。相変わらず、余計な一言が多い兄である。兄の欠片もない兄だけど。

「ぱぱー」
「…え?」
「くるみちゃんのいもうとかおとうと、ぱぱつくって!」

本当に、余計な一言が多い。







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