02



「な!いい男だろ!?」

…今日程、自分の兄を馬鹿だと思ったのは産まれて初めてです。



「てか、なまえさん。幸太郎と知り合いなの?」
「いやいや、知り合いって何言ってんだオマエ。おまえが俺の知り合いだろ?なまえは俺の…ん?なに、どうゆうこと?」
「壱くんはあたしが勤めてる会社の隣にあるカフェの人で、友達なの。ね、壱くん」
「ん、で…そっちは?」
「幸太郎はあたしのお兄ちゃん。名字、一緒でしょ?」
「…性格全然似てねえ。」
「悪かったな。似てなくて。しっかしおまえら知り合いだったとはな!いいじゃねえか!」

かなり嫌ーな予感。幸兄のいいはあたしにとって基本良からぬ事だ。

「あ!壱くん何飲む!?」
「じゃあ、ウーロン茶」
「今日車なの?」
「ん、車だし…あんま好きじゃない、酒」
「なーにいってんだ!今日はめでたい日なんだから飲め飲め!」
「そっ…そうだね!珍しいメンバーに乾杯だね!」
「ちがうだろー!今日はおまえと壱の」
「わー!わー!乾杯ー!」

つ…疲れる。上機嫌でトイレに行った兄を横目に見てため息をつくと、そんなあたしを見て笑う壱くんの顔が目に映る。

「幸太郎が“世界一可愛い俺の妹と付き合え”って泣きながら。」

しっ…知ってたー!
壱くん既にもれなく幸兄の被害にあってたー!

「そんなつもりなかったけどあんまりにも必死に頼まれて来てみたら、なんだ」

なまえさんだったんだ、なんて壱くんが笑って。

「全然可愛くない妹でごめんね。」
「充分だよ、幸太郎の妹なんて勿体ないくらい」

っ…!お世辞で照れてしまう自分がなんか恥ずかしい。もう死にたいくらい恥ずかしい。

「…言ってないの?彼氏いる事。」

壱くんのその言葉に小さく頷くあたし。

「だって、あれだもん。誰と付き合っても却下。別れろって言われるから」

それは本当。だけど少し嘘。
幸兄は本当にあたしがその人を好きなら無理矢理になんか別れさせない。だけど悠真の事を話せば…なんだか怖くて言えないまま。

「それに幸兄が認めた相手しか駄目なら壱くんしかいないもん。そうなったらアタシ一生独身決定だよ」
「…なんで?」
「なんで…って、」

なんで、ってそんなの壱くんがあたしなんか相手にするわけないから…だけど何故か言えなくて。

「まあ…確かに、俺となまえさんが結婚すれば幸太郎が俺の兄さん…なんか嫌かも。」
「あはは!嫌ね!なんとなくわかるよ」
「ハル+幸太郎とかありえねー、うるさすぎて死にそ。」
「その中に唯子が入ったら絶対壱くん顔色悪そうだもんね!」
「…もしそうなったら助けて。」
「あはは!わかったよ!でも、幸兄と壱くんが友達だったなんて意外!」

壱くんはどちらかと言えば静かなタイプで幸兄みたいなよく喋る人間は苦手そうなのに。

「そう…?たぶん一番仲いー奴が幸太郎」
「そうなの?」
「ん、自分も自分で壁作ってるし、周りもやっぱ俺に作ってるから。それを簡単にぶち破ってきたのが、幸太郎。」
「遠慮もなかったんだろうね」
「あったら幸太郎じゃないでしょ?」
「ふふ、確かに。」

壱くんが側にいるならお兄ちゃんの事、なんかすごく安心した。

「そういえば幸兄、遅いね」

あたしが思い出したようにそう言った瞬間、ケータイのメール受信音。

「あ、幸兄からだ。」
「…俺のケータイにも」
「んっと、…え?」


送信者:幸兄ちゃん
sab:RE
──────────
いい感じじゃん!
会計済ませといたから、
お邪魔虫は帰るな!

あと今週の日曜日
ネズミの国行こうぜ!
じゃあな!

‐‐‐‐end‐‐‐‐



「…はあ、」

あーのー自己中馬鹿兄貴がーっ!!
(会計済ませてなかったら1ヶ月メールシカトしてやるとこだ!)

「幸兄、帰っちゃったみたい。」
「…らしいね。」
「もう11時だし、帰ろっか」
「ん、…送る。」
「いいよいいよ!まだ電車あるから!」
「や…幸太郎にも頼まれたし」

そう言って壱くんがあたしに見せたケータイの受信画面。



送信者:コータロー
sab:RE
──────────

なまえを宜しくな!

‐‐‐‐end‐‐‐‐


壱くんが少し天然入っててよかった、と心から思ったのでした。



第四章‐暖簾を潜れば‐
2009/09/22(完)


- 13 -

*前 | 次#
ALICE+