07
部屋に戻り楽なスウェットに着替えると向かったのは竜太郎んち。

「トモー?ご飯食べてくー?」
「おー、よろしく!」

玄関の扉の開く音を聞いてオレが来たのが分かったのか、キッチンがあるリビングの方から聞こえた竜太郎ママの声にそう返して階段を掛け昇る。

「おお!トモ!」

竜太郎の部屋の扉を開けようとドアノブに触れた時、隣の部屋から出てきたのは

「あ、シゲ兄」

萩野茂徳(シゲノリ)。竜太郎の2個上の兄ちゃんだ。ちなみに竜太郎は3人兄弟の二番目で下に弟がいる。

「わりぃな!色々話てーとこだが、人待たせてんだ」
「…また女?」
「おう、いい女だぜ。」

シゲ兄はそうにやりと笑うとこっそりとオレに耳打ちをした。

「今度はな、社長婦人。」

シゲ兄はハッキリ言うと、女癖が悪い。前、極道の女に手を出して殺されかけたってのに、全然懲りていないらしい。

竜太郎に似てよくモテるけど、なんせ性格がこれだから女にとって竜太郎よか希少価値はないだろう。それにシゲ兄は普通の女の子じゃ満足出来ず、常にスリルがある恋愛を求めている。

「じゃあな!」

ニカァ、と笑ってオレに手を振り階段を降りてゆくシゲ兄に思わず合掌。いつかシゲ兄は沈められるだろう、いつかきっと。

「て、なんで先始めてんだよ。」

ガチャリと扉を開け、視界に映るは竜太郎の部屋。そしてその一角にあるテレビにはゲームソフトのオープニング映像が流れていた。

「ばーか。電源入れただけだっつうの。」

とか言いつつ、ちゃっかりコントローラ持ってんじゃん。なんて突っ込みを抑え、竜太郎の寝そべるベッドの横に腰を降ろした。

竜太郎も制服から着替え終わっていたらしく、黒のロンTとオレと同じスウェットパンツで、ラフな格好。

「貸せ。コントローラ。」
「どーせ倒せねーんだろ。昨日何回死んだと思ってんだ。」
「6回死んだ所で竜太郎に変わったろ?んで結局竜太郎も倒せなかったじゃねーか。」

昨日はラスボス相手に結局12回撃沈して終わった事を思い出す。

「だかーら、今日もオレから先に…って冷た!」

コントローラを竜太郎の手から奪い取ろうと指先が触れてビックリ。一瞬屍かと思ったくらい、竜太郎の手は冷えきっていた。

「チハル、湯タンポ。」

オレの手にポンとコントローラを置くと、布団にくるまった竜太郎。そしてひょこっと顔を出し、平然とそう言う。

…湯タンポって、おまえ。

「ったく。オレを使うなよ」

しょうがねーな、とばかりに重い腰を上げて竜太郎が潜る布団に入り込む。

竜太郎の言う湯タンポは、人間湯タンポ。売っている湯タンポよりも、人間の方が遥かに暖かいらしい。けど、竜太郎の湯タンポはきっとオレしかいねーから、湯タンポ=オレ。普通男同士でベッドに入ったりしねーと思うけど、昔っからの事で抵抗も何もない。

俺に巻き付き暖を取り始めた竜太郎を放って、スタートボタンを押した。

「長老ー!それを早く言ってくれー!」

どうやらラスボスを倒す前に会っておかなきゃならない登場キャラクターがいたらしい。

それに気付いたのがゲーム始めて1時間後。昨日も合わせれば3時間弱。融通の効かない長老と、やっと今気付いた自分に怒りが込み上げて込み上げて仕方がない。

その怒りを抑え、キャラに会い終えると、待ってましたラスボス戦。

「うらあ!死ねえええ!」

激しく火花散る画面。ちょ、デカくなるとかナシだろ!なんて独り言を言いながらも必死にコントローラを押し続ける。○ボタン、×ボタン、食らえ!必殺技△ボタン!

そして、その結果“まいった”の文字。

「か、勝った…!」

そう今、まさに1週間と3日の集大成が終わりを告げたのだ。

「ざまーみやがれってんだ」

…それにしても疲れるゲームだった。結局、終わった後の感想はそれだ。

さっきのラスボス戦に燃えすぎたせいでどっと疲れが押し寄せる。

あ…てか、竜太郎は?

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