烏丸京介
隣人


※2020年の暦で話しています。


 廊下から聞こえてくる幾つもの高い声。いつもと違う朝の始まりに今日は何かあったかと考えてみるけど思い当たるものは何もない。意識せずとも耳に入ってきた「おめでとう」の言葉にようやく何があったのかを察した。
「京介おはよう」
「おはよう」
 教室に入ってきた烏丸がまっすぐ私の隣の席に歩いてきて手にしたものを机の上に置いてから座る。
「おはよう神威」
「おはよ……」
 烏丸の机の上に置かれている可愛くラッピングされたプレゼントの数にびっくりしてしまう。
「今日、誕生日なの? おめでとう」
 知らなかった。同じクラスになって約一ヶ月。隣の席になった縁もあって烏丸とはよく話すし仲もいいと思っていたけど誕生日なんて教えてもらっていない。ま、聞いてもいないんだけど。
「違う。誕生日は明日だ」
 誕生日当日が土曜日だから今日渡そうと思ったのか。なるほど納得した。
 もう一度机の上のプレゼントを、そして烏丸の顔を見る。綺麗な顔立ちをしているし真面目(だと思う)でモテそうだなと思っていたけど、本当にそうだったみたい。違うクラスなのに既に烏丸の誕生日知っているの、純粋に凄いと思う。まぁもしかしたら同中で知っていたからなのかもしれないけど。
 悶々と考えていたら烏丸と目が合う。
「どうした?」
「明日だって分かっていたら私も用意したのに」
「……俺の誕生日、知っていたらプレゼントくれたのか?」
「そりゃ友達だもん。言葉だけじゃなくて何か渡したいと思わない?」
「そうだな」
「ま、烏丸の好きなものプレゼントできる程好きなものとかよく分かっていなんだけど。ね、ね、烏丸はプレゼントは形に残るものと残らないものどっちがいい? 食べ物派? それとも物派?」
「週明けに渡してきそうな雰囲気だな」
「今日何もないし、当日は先約あるだろうし祝えないからね。遅れちゃうけどまー楽しみにしていてよ」
 烏丸の表情は変わらず綺麗な顔したままだ。一ヶ月、隣の席にいなかったら彼のポーカーフェイスに戸惑って話を打ち切っていたと思う。返ってくる言葉を聞きながら迷惑ではないことを確認して、何を贈ろうか思案する。
「神威。リクエストしてもいいか?」
「ん? いいよー」
 何が好きなのか知るいい機会かもしれない。ちょっとわくわくしながら烏丸の言葉を催促する。
「連絡先教えて」
「え、いいけど。それ誕生日プレゼントでいいの?」
 思っていたものと違って目を丸くする。
「当日、メッセージ送ってくれたらいいから」
「無欲だね」
「そんなことはない。ボーダーで突然休むことになった時、神威にノートお願いしたいし分からないところは質問できるからな」
 なんとなくそうかなと思っていたけど烏丸はやっぱり真面目だった。私はボーダーに護ってもらっている側の人間だからそれくらい全然気にしなくてもいいし言われたらいつでも貸すのに。
「うん。じゃあ交換しよ」
 お互いのスマホを出し合って連絡先を交換する。
「良かった。この間神威に見せてもらったノート分かりやすかったから助かった」
「そう? 自分ではよく分からないな」
「ちゃんと整理して書かれているから理解しやすいし自分が分からない箇所に気づける」
「ちょっと大袈裟じゃない?」
 誉められるのがむず痒い。感謝されることに悪い気はしないけど称賛の言葉に耐え切れなくて思わず口を挟む。すると烏丸の雰囲気が少し変わった、ような気がした。なんというか我に返るとかそんな感じ。表情が変わっていなから自信はないけど。
「……休んだ時の授業のノートを誰に借りるかが大事なんだって中学の時に学んだんだ。稀に解読が必要なノートがあるから――」
 白状された言葉に、当時は苦労したことが簡単に想像できて同情する。
「ちょっと責任重大な気がするけど頑張るね」
「ありがとう」
 表情は変わらず綺麗なまま。それでも嬉しそうに笑っているような気がして私は笑った。

 ――烏丸は実用的なモノが好きなのかもしれないな。

 来年は楽しみにしておいてよと心の中で呟いた。


20200510


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