クリスマスの過ごし方
聖夜と私の可愛い人


仕事が終わって時計をちらっと見る。
定時通りに終わったけどどうしても気にしてしまうのはアキがこの後約束をしているからだ。
今日はクリスマスだ。
俗にいうクリスマスデート。
いつものデートとは気分が一味違うのだ。

会社を出てすぐ…寧ろ目の前に見知った車が一台止まっていた。
持ち主が誰なのかは知っている。
今日、会う約束をしていた人だ。
…というか、寒いから車の中で待っていればいいのにとアキは思う。
それでもなんだか嬉しくてアキは駆け寄った。

「匡貴、お待たせー」
「意外と時間通りだったな」
「残業禁止だからね。
そもそも残業しなきゃいけないような仕事はしてないし。
それよりも寒い!車早く乗せて!!」

そう急かすと二宮は呆れたように息を吐いた。
頬が少し赤いところを見ると、よっぽど寒かったのではないかと思う。
高圧的な態度を取っているいつもの姿からは想像がつかないそういう行動が、
なんだか可愛らしく感じてしまう。
大の男にそんな事を思うのは失礼なのかもしれないが…。
車のキーが開けられる。
アキは急いで車に乗り込んだ。
それを確認して二宮も車に乗る。
二宮のこういう律儀なところもアキの好きなところだ。

車に乗って数十分。
窓から見える夜景を楽しみながらのプチドライブも楽しかったが、
その後のホテルでディナー…というのも中々新鮮だった。
別にホテルのレストランでご飯を食べるのがではない。
あの二宮がシャンパンを飲もうとしているところだ。
確かにクリスマスコースで予約したので、
ケーキとシャンパンのセットは避けては通れなかったのかもしれない。
ワインとか普通に飲みそうな顔つきをしている二宮だが、
実際はアルコールが苦手だ。
飲み放題付きでどこかへ外食へ行った時は、お酒など頼まずジンジャエールを頼む。
その事についてからかえば「運転するから飲まないだけだ」なんて、返された。
確かに飲酒運転はよくないが、
真実は至ってシンプル……二宮はアルコールに弱いのだ。

(そんな無理しなくても…)

アキは思った。
気を利かせて他の飲み物の注文しよう…と一度考えて、止めた。
折角、今日の事を考えて選んでくれたんだし、
それを楽しむのもいいのではないかと。
シャンパンの香りを嗅いで一瞬眉をぴくりとさせた二宮を見てアキは思った。
自分が苦手なものに、
可能な限り避けるのが人だ。
だけどそれを感じさせずに振る舞っている姿は、
少なくても今日のこの時間、自分のためにしてくれている事のはずだ。
そう考えると、とても嬉しく感じる。
完璧主義者なのにちょっと抜けている感が否めないが、
そこが可愛い。
男性相手に、しかも二宮相手にそんな事思うのは一見可笑しいかもしれないが、
これでいてこの男、ちょっと天然が入っているのだ。
二宮と付き合い始めて知った事だが…それがアキのツボに入ってしまったのだからしょうがない。
アキにとって、二宮に対しての可愛いと愛しいはイコールだった。
本人に言うと間違いなく不機嫌になるのが分かっているので言わないが…。
しかしそう思えば思う程、
二宮に全て任せてこの時間を楽しもうと思う。
…そう思わせるくらい二宮と一緒にいる時間はアキを満たしてくれるのだ。


テーブルの上には並べられた料理と真ん中にキャンドル。
窓の外にはイルミネーション。
目の前には愛しい人。

アキはシャンパンが入ったグラスを掲げる。

「メリークリスマス」
「ああ」

ぶっきらぼうに放たれたその言葉の後に、
同じように二宮もちゃんとグラスを掲げる。
そのまま乾杯してアキは一口飲んだ。
これまた同じように二宮もシャンパンを一口…その顔を見てアキは微笑んだ。

――今日は泊まるし、思う存分酔わせちゃおう!


夜はまだ始まったばかりである。


20151220


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