「零、くん…?」
目の前に止まった白のRX-7。零君だけが乗っている車じゃないって分かってる。だけど、乗っているのは零君のような気がしていた。
そして、運転席から降りてきたのは。
「………零君…」
やっぱり、思った通り零君だ。さっきのはきっと風見さんの悪い冗談だったんだ。きっと風見さんのこと怒って、私のことを迎えに来てくれたんだ。
なんだ、よかった。そうだ、今までのことは全部悪い夢だったんだ。
さっきの風見さんの嘘も、私が撃たれたのも、零君によく似た人に会ったのも、全部全部、全部。
タクシーへと近づいて来た零君はタクシーの運転席までいくと窓をノックして、運転手は少し首を傾げながら窓を開けた。
「いきなりすみません、彼女…ここで降ろして下さい。料金はいくらですか?」
「え?あ、はい!えーと、」
零君の言葉に、運転手は少し慌てながらメーターを止める。私は零君と運転手のやり取りを後ろの席からボーッとただ眺めているだけだった。
全てのやり取りが終わって、後ろの扉が開く。
開いた扉の先には、手を差し伸べている零君が居た。
「………一緒に帰りましょう?」
「零、くん」
座席から腰を浮かして、差し伸べられた手をとらずにギュッと、零君の首元に抱きついた。
「零君、零君、ごめんなさい。私、私…」
もう離れたくない。離さない。そんな気持ちを強く込めて抱きつく力を強くする。
そんな私を零君は頭を撫でてくれた後、膝裏に手を入れて抱き上げてタクシーの外へと出してくれた。
話は後で、と言うと零君は早歩きで自分の車まで戻って来て、私を助手席へ乗せて零君は運転席へと戻ると自分のシートベルトを締めて、ただ助手席に座っていただけの私に呆れたような溜め息を吐いた後、私のシートベルトも締めてくれた。
「あ…ボーッとしてて…あのね零君、私…」
「話は後で、と言った筈ですよ?」
「え?あ、でも」
「…とりあえず、この場から離れます。いつまでもここに居ては他の方の迷惑になりますから」
「あ…ご、ごめんなさい」
零君は真っ直ぐに前を見たまま、こっちを一度も見ることなく車を発進させた。
車が走り出しても、私も零君も特に何かを喋るわけでもない。
冷たい態度の零君が何だか怖くて。ふと、窓の外を見ながら隣に居る零君は、私の零君じゃなくて、目が覚めた時に会った零君によく似たあの人、のように思った。
バッと、運転席の方を見る。運転する横顔は零君、なのに。
「………零、君…?」
何も反応せずに、ただ前を見つめて運転したまま。それが、答えのような気がした。
さっき会った風見さんとの事を思い出す。私を、知らないと言った。警察庁の他の人達も、私を知らない不審人物を見るような目で見ていた。
「ねぇ…返事してよ、零君…ねぇってば!!」
何度零君の名前を呼んでも、彼がこっちを向いて返事を返してくれることはなかった。私が数時間前に飛び出したマンションの前に着いた後も、ずっと。
悪い夢を見ていただけ
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