風見から電話がかかってきたのは、彼女が全く見つからなくて苛立っていた時だった。

かかってきたのは降谷零のスマホの方で。今は居なくなった彼女を探す方を優先したかったが、何か急用だったらまずい為に電話をとった。
まさか、この電話のおかげで目当ての彼女を見つけられるとは思わなかった。

『あ、降谷さん今大丈夫ですか?』
「………あぁ、何かあったのか?」
『はい。実は先程ーーー、』

話の内容は至ってシンプルだった。俺を知り探す、見知らぬ怪しい女がついさっき警察庁に現れたという内容だった。

すぐに頭の中に浮かんだのは、今探し回っている女性の姿。何故か、その見知らぬ怪しい女は彼女しかありえないと、思った。

『それでですね、降谷さんーーー』

風見には悪かったが、まだ何かを喋ろうとしていたのを遮るように通話を一方的に終了させて、すぐ近くに駐車していた車に戻って乗り込み、警察庁へと向かう。
早く、早くと気持ちが焦る。無意識にスピードを上げていく。焦っているのに頭の片隅で、これじゃスピード違反で捕まるな、なんて呑気にそんな事を考えていた。

幸いな事に、彼女を探し回っていつの間にか警察庁までは普通に車で走っても5分もかからない場所に居た。車をかなり飛ばしてきた今なら、3分もかからないで警察庁のすぐ前まで来る事が出来た。

「早く、捕まえないと」

駐車場に車を駐車する時間も惜しかった。とりあえず、駐車禁止ではない路肩に、と少し辺りを見回した時だった。
タクシーに乗り込もうとしていた彼女を、見つけたのは。

「っ、」

そこからはもう、彼女の事しか見えてなかった。捕まえる事しか、頭になかった。
気付いたら彼女の乗ったタクシーの進路を車で妨害していた。

車から降りてタクシーに駆け寄って運転席の窓をノックして窓を開けさせて、冷静を装いながら運転手と会話をする。ここまでの料金の会計を済ませて、まだ少し戸惑いを隠せていない運転手を無視して、後部座席のドアを開けるように促す。そして中を覗き込みながら手を差し伸べれば、彼女と視線が交わる。

よかった。彼女を逃すことなく捕まえられた安心から無意識の内に笑みを零していた。

「………一緒に帰りましょう?」
「零、くん」

差し出した手に手が重なる事なく、彼女が首元に抱き付いてくる。耳元で、涙声でただ謝るだけの小さな彼女の声が聞こえていた。
彼女の頭を撫でて、その体を抱き上げてタクシーから連れ出す。抱き抱えたまま車へと戻って、まだボーッとしている彼女のシートベルトを締めて車を走らせた。

彼女が、何度も俺の名前を呼ぶ。だけど、安室透で居る為にはその声に応えてはいけない。

隣に座る彼女が泣きながら、俺の名前を何度も呼び続けても、きっと。

昨日が遠くで泣いた


title.秋桜

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