「目覚めてよかった、丸三日も眠っていたんですよ」

にこやかな笑みと共に零君が側へと近寄って来る。とりあえずよかった。何故見知らぬ寝室にいるのかとか、あれから彼らは無事拘束出来たのとか、色々聞きたい事はあったけど。何よりも一番、彼も無事だった事に安心した。

「熱も…ちゃんと下がっているようですね。昨日まで高熱も出していたんですよ」

すぐ側まで来た彼は少し身を屈めて、右手を伸ばして額にかかった前髪を優しく払いながら額に触れ、そう言う。

少しひんやりした掌の温度が心地良い。

「………よかった」
「え?」
「零君に生きてまた会えて、本当によかった…」
「、」

零君を見つめながらそう言って、思わず顔いっぱいに笑みが広がる。嬉しさのあまり体の痛みの事なんてすっかり忘れて、目の前の彼の首に腕を回して勢いよく抱き着いた。

「、った」

体が健康な時と同じように体を動かしてしまった為、抱き着いた瞬間に痛みが走る。だから、その痛みせいで気付かなかった。抱き着いた瞬間、零君の体が一瞬強張った事に。

「…ほら、いきなり起き上がったりしては駄目ですよ。あなたは怪我人なんですから」
「あ、はは…ごめんなさい、つい嬉しくて。ねぇ、そう言えば彼らは拘束出来たんだよね?私よく覚えてなくて………零君?」

何だか反応が薄い零君を不思議に思い、体を少しだけ離してその顔を見る。零君は困ったように、笑っていた。

「零、くん?」

零君の両手が体に触れる。そしてゆっくりと、優しく。彼から引き剥がされた。

「喜んでいる所で申し訳ないのですが…」
「え?」
「どなたかと勘違いしているようですね。僕はあなたが言う『零君』ではありませんよ」
「………え?」

君の夢を見ていたかった


title.金星

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