「透、好きよ。好き」
唇に、彼女の柔らかな唇が触れる。触れては離れて、また触れて。啄むような短いキスが繰り返される。
まさか、彼女の口から僕に対して好き、なんて言葉を聞けるなんて夢にも思っていなかった。
名前が好きだ。ライから、無理矢理にでも奪ってしまいたかった。
最初は嫌われたままでいい、奪ってゆっくり。傍でただ彼女だけに優しくして甘やかして、愛を囁いて。少しずつ僕の方を見てくれればいい、と思っていた。
だけど本当は。今すぐにだって、僕が名前を想うくらいに、名前に僕を想って欲しかった。あいつなんかじゃなくて、僕を見てほしかった。
「……透?どうしたの?」
「いえ、少し、びっくりして」
「びっくり?」
「あなたが、ライを凄く好きなのはよく知ってましたから。だから…」
「だから…?」
コツンと、額と額を合わせて。唇と唇が触れ合いそうな程近くで見つめ合って、そして。
「あなたに好きと言ってもらえるなんて、夢みたいだ」
ギュッと強く、彼女の体を抱き締めた。
「……夢みたいなんて、大袈裟だなぁ…」
「それくらいあなたが好きで、欲しくて堪らないって事なんですよ」
「ふふっ」
名前の細い腕が背中に回って、抱き締め返してくれる。耳元で名前がクスクスと楽しそうに笑うから、それが少しだけ擽ったかった。
「ねぇ、透」
「はい?」
「私…すぐには全部、透にあげられない」
「……分かってます」
「ねぇ、透」
「なんですか?」
きつく抱き締めていた腕の力を緩めて少しだけ上半身を起こして、彼女を見下ろす。すると名前の小さな手が僕の頬まで伸びてきて、そっと頬を撫でた。
「早く…全部、私のこと奪い去ってよ」
「……名前」
「ライのことなんて考えないくらいに、全部…全部、透のものにしてみせてよ」
頬を撫でていた彼女の手が後頭部へと移動すると、そのまま勢いよく頭を引き寄せられてキスを、された。
そのキスはあまりにも勢いがよくて唐突で。思わず歯と歯がぶつかってしまったのは仕方のないこと、だと思う。
「っ……まったく、お転婆にも程がありますよ」
「だ、だってこんなに体の力抜いてるなんて思わないかったのよっ!何でちゃんと力入れてないのよっ」
「勢いが良過ぎるんですよ、まったく。ほら」
「な、なによ」
「もう一回。今度は優しくして下さいよ」
「、」
目を瞑って、キスを促す。そのすぐ後、肩に彼女の手が触れたと同時に、唇に柔らかな何かが触れた。
薄っすらと目を開けて目の前の名前の顔を盗み見る。
そこにあるのは目を瞑り、少し頬を赤く染めた名前の顔で。
自分が彼女にこんな表情をさせたかと思うと、彼女がこんな表情を僕に向けてくれているのかと思うとどうしようもなく、名前が愛おしくて堪らなかった。
「、名前っ」
「!ちょ、とおーーーっ」
肩を掴んでいた彼女の手を取り、そのまま手首を握ってまた押し倒す。
キスの主導権を彼女から奪って、そのキスを深いものへと変えていく。
「んんっ、ちょ…」
僅かに口が開いた間に、舌を中へと潜り込ませる。逃げる間もなく彼女の舌を絡め取れば、少しだけ彼女が抵抗してくるがそれも一瞬。すぐにそのキスを受け入れてくれる。
「名前、名前、」
「ふ、んっ…なぁに…?」
「好きだ」
唇を放して今度は首筋に顔を埋めて、舌を這わせる。
不意に香った彼女の香りが優しくて、甘くて。どうしようもないくらいに彼女が欲しくて堪らなくなった。
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