「そういえば、何かあったのか?」
「ん…何が…?」
「いつもならしつこい位に甘えてくるが、今日は甘えてこなかったからな」
「……え?」

情事後。ライに背を向けて目を閉じていたら、彼に頭を撫でられてその気持ち良さにうとうととして、つい眠ってしまいそうになっていた。
そんな中でかけられた言葉に、眠気が吹き飛んでしまった。

目を開けて、後ろを振り返ってライを見つめる。いきなり振り返ったせいか彼は少しだけ、不思議そうな表情をしていた。

「どうかしたか?」
「う、ううん…いつも纏わり付いてたの本当は鬱陶し、かったのかなぁ…って…今度から、気をつけるね」

好きな人には、嫌われたくはない。本当はくっついていたいのが本音だけど、気をつけないと。そんな事を考えながらも、つい癖でその胸に顔を埋めて擦り寄ってしまった。
あ、と思って体を離そうとしたがそれよりも彼の方が行動を起こす方が早かった。

体は離せなかった、それよりも早くライの腕が背中に回って、抱きしめられたから。

「ライ…?」
「鬱陶しいだなんて、思う筈もないだろう?」
「え?」
「好きな女に甘えられて、鬱陶しがる男なんていないさ」

耳元で囁かれる。あ、今キュンってした。

「ライ…」

抱き締められていた腕が離されて、今度は彼が少し体を起こす。いつの間にか体を跨がれていて、真上から私を見下ろしていた。見つめられる目が、少し熱を孕んでいたような、気がした。

両手を伸ばして、ライの頬を撫でる。そのままの流れでその手を首に巻きつけて、上半身に力を入れてギュッと抱き締めた。

「………ね、もう一回、甘えてもいい?」

ライが耳元でふっと笑う。その質問には答えずに、抱きついていた腕を離されて、背中が再びベッドに戻る。

「………駄目なの?ライ」
「まさか。一回と言わずに好きなだけ甘やかしてやる」

頬を撫でられながら、言われて少し顔が赤くなる。この人は恥ずかし気もなくも、よくこんなこと言えたものだと思う。

「名前」
「………しゅう、」

ゆっくりと、顔が近づいてくる。その唇を受け入れる為に目を瞑る。そして唇と唇が触れる、その瞬間。

甘い空気を引き裂くように、スマホから着信を告げる着信音がけたたましく鳴った。

「………」
「………出ていいぞ」

ライが体を起こして、上から退く。こんな時くらい無視してもいいのに、と妙な所で真面目なライに溜め息が溢れてしまった。

「ん…ごめんね」

ライは私に背を向けてベッドの端に腰掛けると、煙草をとって吸い出す。
なんかなぁ…、と思いながら上半身を起こして、スマホを取る。

「………、」

表示されているバーボンの名前に、また溜め息が溢れた。

邪魔してごめん、わざとですけど


title.確かに恋だった

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