人通りが多い、大通りの路肩に停められた車の中。今日の仕事は、バーボンと組んでいるものとは別のもので。大物政治家が開催しているパーティー会場で、あるプログラムソフトの取引をベルモットに同行して行うことになっている。本来は男女の方が目立たないのだけど、主催の政治家は女好きで有名だそうで。招待客は女性の方が多い為に、女同士の方が目立たないのだ。
ちらりと、車の中の時計を見る。待ち合わせより少し早く着いてしまい、まだ約束の時間まで少しあった。

ハンドルに凭れながら、ふと思い出すのは先日に会ったバーボンの事。
最近、ライ…しゅうと、上手くいっていない。優しいし、好きだと言葉にしてくれるし、セックスだってする。愛されてると、思う。好きだと言う言葉に嘘はないと思う。だけど、心の半分が『ここ』にない。きっと、半分はあの子の所にある。
しゅうは、優しい。だからきっと、心の半分以上にあの子を愛したら、彼はきっとあの子の所に行ってしまうのだろう。
しゅうが好きで、それが嫌で。でも、私の『仕事』でもある、しゅうの『仕事』の邪魔も出来なくて。

好きなのに。なのに、好きでいるのに疲れはじめた時だった。バーボンが近づいて来たのは。

「………はぁ」
「ずいぶん大きな溜め息ね、どうかしたの?」
「!!」

溜め息を吐いた、時だった。少し開けていた運転席側の窓越しにそう声をかけられたのは。びっくりして窓の外を勢いよく見た。そこに居たのは、目深に女優帽を被り、サングラスをしたよく見知った人。

「何だ…ベルモットかぁ。いきなり声かけないでよ、びっくりするじゃない」
「あら、ごめんなさい。随分大きな溜め息だったから、突っ込んでほしいのかと思ったわ」
「別にそんなんじゃないし…」

ベルモットは助手席側へと回り込み、車に乗り込む。どうやらもう待ち合わせの時刻らしく、自分が思ったよりも長く考え事をしていたらしかった。

「杯戸シティホテルよね?」
「えぇ、エスコートお願いね?」
「はいはい」

クスクスと笑うベルモットを助手席に乗せ、車を走らせる。杯戸シティホテルへは10分も車を走らせれば着く予定だ。そんな車内で先に口を開いたのは、ベルモット。

「そう言えば…」
「なぁに?」
「コードネーム、バーボンとは上手くやれているの?」
「!」

突然出たバーボンの名前に驚いて体が大きく跳ね上がる。そんな私の反応が面白かったのか、ちらりと横目で見たベルモットはクスクスと笑っていた。そう言えば、私がバーボンと組まなきゃいけなくなったのは、ベルモットのせいでもあった。

「…ベルモットって、バーボンと仲がいいわよね」
「別によくないわよ」
「じゃあなんで私の仕事取って、自分の仕事を私に回したのよ。バーボンがあなたに頼んだんでしょ?」
「仕方ないじゃない、仕事でもないと貴女に近づいてアピール出来ないってうるさいんだもの」
「だからバーボンの頼みを聞いたの?」
「まあ、色々あるのよ。色々とね」
「……ふーん」
「でも、その様子だとあまり上手くやれてないみたいね、バーボン」
「………任務はちゃんとやる。バーボンと必要以上に仲良くする必要なんてないわ」

赤信号に捕まり、車を停止させる。嫌なタイミングで信号に捕まってしまった。今度は、ベルモットの方を見ることは出来なかった。面白そうな、クスクスと笑うベルモットの笑い声だけが車内に聞こえる。

「脈なし、だと思ってたけどそうでもないみたいね」
「…何のこと?」
「ふふ、何だかその言い方、バーボンのこと意識しているような言い方だったから」
「………別に、意識してない」
「あら、強がらなくてもいいのに」
「強がってもないから!私はバーボンなんて嫌い、私が好きなのは…、」

嫌なことに、ベルモットにはバレている。私としゅうーーライが隠れて付き合っているのを。
ベルモットは知っていれ。ライの、表向きの恋人が宮野明美であることも。

「好きなのは?」
「………、私が…」

信号が、青に変わる。
言葉が、出ないのは何故?

「ねぇコードネーム、貴方…

気持ち揺れてるって、認めたら?


title.確かに恋だった

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