あれから。
横断歩道であの子と一緒だったライを見つけ、バーボンに。バーボンにキスをされた。ライとは違う唇の感触に、不思議と嫌悪感は感じなかった。それは、キスをする前にバーボンが言っていた…私がバーボンに奪われたいなんて、思っていたからなのだろうか。本当にそんな顔しちゃってたのかな?

キスはほんの一瞬だった。
すぐに信号が青に変わって、バーボンに手を繋がれて歩き出して。キスされて茫然としていた私は俯きながら歩いていて、すぐ近くでライとあの子に擦れ違ったことに気付かなかった。

ライと、バーボンの視線が一瞬、交わっていたことにだって勿論、気づくはずもなかった。

「コードネーム」

チュッ。

「っな!」
「さっきからボーっと、何考えてるんです?」
「な、何でキスするのっ?!」
「さっきからずっと名前、呼んでたんですよ?」
「答えになってないんだけど…」

バーボンの車に乗ってお寿司屋さんまでの移動中。ボーっと色々考えていたらいつの間にか赤信号に捕まっていたらしい。
いきなり視界がバーボンの顔で埋まって、唇にチュッと音を立てながらキスを落とされた。不意打ちでされたキスにキッとバーボンを睨むと、嬉しそうにバーボンが笑う。

「………なんでそんなに嬉しそうなの?」
「コードネームが僕を拒まないから」

信号が青に変わり、こっちに身を乗り出していたバーボンの体が元の位置に戻って車が動き出す。今にも鼻歌でも歌い出しそうなご機嫌なバーボン。
ふい、っと窓の外に視線を逸らす。

「…不意打ちでされたんだから、拒むも拒まないもないと思うけど」
「でも、嫌ではなかったでしょう?」
「、い、いやだった!!」
「へぇ?」

クスクスと、楽しそうに笑うバーボンの声が聞こえる。きっと、キスされたのが嫌じゃなかったと思っていた私の気持ちはバーボンにはバレバレで。何だか、悔しい気持ちでいっぱいになる。

喋った声は、自分でも分かるくらいにとても不貞腐れたものだった。

「………お寿司」
「はい?」
「高いやつ!いっぱい食べて困らせてやるんだからね!」
「またそんな可愛いことを言って。もう一回キスして欲しいんですか?」
「ち、違う!」
「コードネーム」
「何よ!まだ何かあるの?!」
「早くーーー、

僕を好きになればいいのに


ドキリ、なんて。
バーボンなんかにときめいたり、してない。そんなの気のせい、の筈。

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