「まったく…なんで僕があなたと二人っきりで」
「スコッチに別の仕事が入ったのだから、仕方ないだろう」
「………ちっ」

組織から、取り引き相手の一人である一人の男。最近動向が怪しいらしく一週間の監視命令が下った。ライと僕の、二人で。

「そもそも、監視なら僕一人で十分なのに」
「ふ…上にも色々と考えがあるのだろう」
「………」

これ以上、ライと口を聞くのが嫌で視線を監視対象者に視線を戻す。どうやら愛人と密会中らしく、表情がデレデレしている。呑気なものだ…と思いながら二人を観察していると、コードネームに会いたくなってきた。僕も、彼女の前ではあんな締まりのない顔をしているのだろうか?
今日の仕事が終わったら、彼女のマンションまで行こう。きっと少し不貞腐れるだろうけど、今の彼女なら僕を受け入れてくれる筈。

コードネームのことを想えば、ライとの仕事でも少しは気分も晴れる。
早く、コードネームに会いたい。

「そういえば…」
「………」

対象者は、いつまでバーで愛人と密会しているつもりなんだろうか。さっさとホテルの部屋に籠るなりしてくれないだろうか。

「最近、コードネームが君に世話になっているようだな」
「、」

ヒクリ、ライの口からでたコードネームの名前に表情が引き攣る。
コードネームのことを考えて、晴れやかになった気分が一気に悪くなっていく。

「あいつは少しドジな所があるからな。仕事でドジを踏まないように、出来ればカバーしてやってほしい」
「………、」

何故、お前にそんなことを言われなきゃいけない。そんな、コードネームが自分のものみたいな、言われ方をされなきゃいけない。自分は他の女のもののくせに、それでもまだコードネームを自分に縛りつけるつもりなのか。

この前の、横断歩道の所でコードネームにキスした所を見られたせいか?僕を牽制しようと、しているのか。

怒りを表情に、声に出さないように冷静を装いながらライに言葉を返す。

「…コードネームはあなたのただの昔からの知人だと聞きましたが。ただの知人であるあなたにそんな事言われる筋合いはないですけど」
「ふ…だが、俺にとっては大切な女なんだ。組織に身を置いているとは言え、あまり命を危険にはさらしてやりたくはない。今、俺はあいつを近くで守ってやれないからな、君に頼むしかないんだ」

その言葉に答える前に、対象者が愛人の肩を抱いて、移動し始める。僕達も彼らの後を気づかれないように追いかける。彼らがエレベーターに乗り込み、上へ向かうのを確認するとすぐに僕達も別のエレベーターで対象者が部屋を取っている階へと向かう。
彼らが、部屋に入って行くのを確認したら、とりあえずは今日の監視は終了だ。

「………今日は、もうこれで終了ですね」
「そうだな」

二人でエレベーターに乗り、ロビーへと戻る。話の途中で対象者が動いた為に消えてしまった話。ライは、先程の自分の言葉の答えを僕に求めることはしなかった。

別に答えがあろうがなかろが、どちらでもいいという訳か。コードネームが、自分のものであることを僕に分からせればそれでいいのか。

僕が彼女に言い寄っても、彼女は自分のものだと、彼女が好きなのは自分だと、近づくだけ無駄だと、そう言いたいのか、こいつは。

いちいちムカつく男だ。

「…安心して下さい」
「?」
「彼女には、『僕』がいます。あなたに言われなくてもこれからはあなたじゃなくて、僕がコードネームを守る」
「………」
「もう、コードネームのことは何も考えずに、あなたはあなたの恋人だけを見ているといい」

ライから視線を逸らさない。そう、これは戦線布告だ。

「昔、コードネームとあなたがどんな関係だったかは知りませんが、今はもう何の関係もない筈です。だから、

彼女はもう、あなた何かに渡さない


prev | top | next

ALICE+