「コードネーム、」
「んんっ」
「コードネーム、コードネーム…」

ただ、キスに夢中だった。いつの間にか玄関前の廊下に座り込んでいて、ただただキスするのに夢中だった。
頭の中はバーボンのことだけで、彼とするキスがただ心地いい。こんな濃厚で強く求められていると感じるキスをしたのは何時ぶりだろう?切なくならない、ただ満たされるキスは何時ぶりだろう。

「名前…」
「…?」
「私の、名前…なんか、キスしてるのに…コードネームとか………嫌」

いきなり告げた私の名前に、バーボンがキョトンと目を丸くする。何だか恥ずかしくなって、赤くなった顔を隠す為にバーボンの首元に擦り寄って、顔を埋める。
数秒後、耳元で嬉しそうに笑うバーボンの声が聞こえた。

「じゃあ、僕もバーボンじゃなくて、透って呼んで下さい。名前」

優しい力で、首元に埋めていた顔を離されてそのまま額と額を合わせ両頬を手で挟まれて、顔を反らせなくなる。
目の前にある顔は、ニコニコと笑っていて。言葉にはしてないけど早く名前を呼んで欲しいとウズウズしているのがよく分かった。

「………とお、る」
「はい」
「…透」
「名前」
「っ、」

ただ名前を呼びあっているだけなのに。何でこんなに照れるんだろう。こんなのまるで、初恋を知ったばかりの子供みたい。

「……見ないでよっ」
「仕方ないじゃないですか、名前の反応が可愛すぎるのがいけないんですよ」
「だっ!から…そう恥ずかしいこと言わないでよっ馬鹿!」

バーボンの、透の顔をグイッと手で押しやる。と、その押しやった手をとられて今度はその手に口付け始めた。

「ちょ、バーボン…」
「透、ですよ?名前」
「…とおる、手放して」
「どうして?」
「どうして、って…だって」
「だって…?」
「っっ、」

初めはただ手に口付けられていただけだったけど、そのうちに指を口に含まれて舐められる。それがやけにヤラしくて、恥ずかしくて落ち着かない。
多分、透も私のそんな気持ちを分かっているの筈なのに、私を挑発しているみたいなキスを止めてくれない。この人、こんなに意地悪だったっけ?

「い、いじわる…っ」
「可愛い、名前がいけないんです」
「またそうやってっ!」

透のくれるキスは手からゆっくりと腕を伝って上へと上がってきて、そしてまた唇へと戻って来た。

「んっ」

目を閉じて、透の背に腕を回して抱きつく。今度はただ触れているだけのキスだった。

「名前」
「……なに?」
「抱きたい」
「!!」

唇が離れて、耳元で囁かれたのはたった一言。透の、バーボンのその言葉で一気に現実に戻された。

頭の中に、今まで忘れていたライの姿が浮かんだ。

「あ…」
「名前、駄目?」
「だ、駄目っ!……だって、だって私にはライが」

背中に回していた腕を放して、バーボンから離れようと身を捩る。だけど私を離さないとするバーボンの抱きしめる力は強くて、バーボンの腕の中から逃げられそうにない。

私が好きなのはライ。私が好きなのは、ライ。私が好き、なのは。
それはまるで、自分に言い聞かせてるみたいに何度も頭の中で繰り返していた。

「も、もう帰って!さっきのことは…気の迷いよ、だから全部忘れて。私も忘れる、から…」

忘れる。誰かに、透に愛されていると感じて幸せだと思った事は全部忘れる。
早く、いつもの私とバーボンに戻らなきゃ。じゃないと、私きっとーーー。

「そんな、」
「え?」
「そんな、まだライを好きだって思い込むように言ったって僕には効果ありませんよ?」
「別に、そんなことない!私が好きなのはライだもの!」
「あいつは他の女性に愛を囁いているのに?」
「あれはっ!!あれは…と、とにかく!私は…ライを裏切れないっ」
「名前」

頬を撫でられながら、バーボンに名前を呼ばれる。早く逃げなきゃ。捕まったらもう、

「なら、全部僕のせいにすればいい」
「……とお、る…」
「ライを裏切るのも全部、僕のせいにして、

あなたは黙って僕に奪われればいい


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