お前の心に狙いを定めて


「ね、今日のディナー、一緒にどうよ?」
「仕事」

死神派遣協会一のチャラ男、ロナルド・ノックス。仕事をしていると思えば次の瞬間女性を口説いているような男だ。残業はしないだとか言って、仕事はきちんとこなす。そうして毎夜の如く合コンに勤しんでいるような、そんな男と私は同期だった。

「他の課の女の子でも誘えば? どうせあては沢山いるんでしょう?」
「いやいやー、今日はみんなに断られたんだよ」

今日は随分しつこいな。
とりあえず私は今夜終わらせないといけない仕事が山積みなのだ。ロナルドから話しかけられながらも、私は上司に提出する書類をまとめていく。私が軽くあしらっても彼は構わずひとり、喋り続ける。

「最近気づいたことがあってさ」
「なによ」
「ゲームもさ、攻略が簡単なやつよりも無茶苦茶難しいやつを攻略した方が面白いじゃん?」

分厚いファイルがドンドン、ディスクの上に積み上げられていく。回収課も楽じゃない。さっさと上に上がって管理クラスに行きたいものだ。

「カレンってオレの誘い、乗ったことないよな?」
「なんなのよ、もう!」

ロナルドの顔が至近距離にあることに驚く。死神特有の黄緑色の瞳を楽しそうに細めて彼は言う。

「女の子も攻略激ムズの方が良い子なんじゃないかな〜と」
「は!?」

つまり、それは私の事を言っているのか?

「オレさ、カレンは死神派遣協会の中でも上位の女の子だって思って!周りに聞いてみたらお前結構人気あるの、自覚してた?」
「し、知らないわよ、そんなの!」

興味もない。そんなこと!
私は書類にペンを走らせようとするが、どうしてか頭が上手く働かず全く進んでくれない。

「だから、誰かに取られる前に言っとくけど。オレ、カレンのこと結構本気で狙ってっから」
「何言ってるのよ、どうせいつものチャラ男のふざけた口説き文句でしょう」
「チャラ男はマジで惚れたら他の真面目な男より尽くすからな」

さっきからこの男は一体何を言っているんだ。私はロナルドの事をただの同期としてしか見ていない。異性として見たことなんて一度だってないのに。

「そのうち男だって意識させてやっから!覚悟しとけよ〜」

いつものように颯爽と去って行った。ホッとしたのも束の間、ディスクの上にはとある店の名前と時間が書かれた小さなメモが残されていた。

「ちょ、ロナルド!」

名前を呼んだが、もう彼の姿は何処にも無い。私は頭を抱えて、椅子に落ちるように腰掛ける。あの男には今日私が仕事なんてものは頭にないらしい。
そして、私ももはや仕事どころじゃない。あんな事を言われたら、私の方が彼を同期として見れなくなる。私は先ほどの彼の姿言葉を思い出す。攻略が難しい方が良い、とかなんとか言っていたっけ。

「……攻略できないような女でいてやろ」

こうなったら私だって簡単には落ちてはやらない。とことん、あのチャラ男を試してやろう。あの言葉が本当なのか証明して頂こうじゃないか。
上司に明日必ずやると言い残し、私は指定された場所へと足を運んだ。


恋は火遊び
(アンタとロナルドって前からそんな喋ってたっけェ?)
(さぁ、どうでしたっけね)

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