第2話



体調不良が続き、病院に行くと私の身体は病に蝕まれていた。
医者が言うに3ヶ月持つか分からないという。治療法は無いと、ただ安静にしている事でしか延命はできないらしい。安静にしているなんてそんなのは耐えられない。動けなくなるまで、私はこの身体を使うと決めたのだ。

「病魔で死ぬ前に私の魂を抜き取って」

病にこの魂は取られたくない。だったら悪魔にあげて、悪魔だけの物になりたいのだ。

「なるほど、御縁談のお話もその様な理由でお断りしていたのですね」
「聞き耳立ててたの? まぁ、いいけど」

私がセバスチャンに願ったのは、私の身体のことは最期までシエルには言わないこと。私が死ぬまで私のやりたいことのお手伝いをすること。

「3つ目のお願いは死ぬ前に言うから」

それさえ叶えて貰えれば私の魂をセバスチャンに与えよう。本命の魂はシエルのようだが、その間にひとつぐらい摘み食いしたっていいじゃない、と言えばセバスチャンは微笑を浮かべた。

「フフ、死を前に気が動転する人間はよく見ますが…。貴女はもはや達観しているのですかね」
「そうかも、私には残すものも無いしね。それで、契約して下さる?」

セバスチャンは瞳が赤く染まる。どうやら交渉成立らしい。目立つ場所ほど悪魔の力は引き出せると彼は言う。
私は髪を片側に寄せて項を露わにすると、セバスチャンに背を向けた。

「ここは?」
「本当によろしいのですね?」
「ええ、どうぞ」

セバスチャンの指が触れた瞬間、感じたことのない痛みが首に走った。ソファに爪を立ててその痛みに耐えようとしたが、脳がグラりと揺れてそのまま意識を手放した。



その後、目を覚ますといつの間にかベッドの上に私は寝ていた。足元に視線を向けるとホットミルクを淹れるセバスチャンがそこにはいた。

「……痛かった」
「失礼しました。しかし、契約は成立いたしました。なんなりとお望を申し付け下さい」

本気で申し訳ないとはこの悪魔は思ってはいないのだろう。セバスチャンから手渡された鏡で自分の項を見ると、黒魔術の証である逆ペンタグルがそこにあった。

「そのような綺麗な項で良かったのですか?」
「平気よ、隠れるようなドレスを着れば」

死ぬと分かっていれば、何でもできるものだ。あと、3ヶ月。やりたいことをするには丁度いい期間かもしれない。

「それで?私は何をお手伝いすればよろしいのですか?」
「そうねぇ…」

やりたいことは色々あるのだが……。でも、まずはやはりこれだろう。私はセバスチャンを側に呼ぶ。

「恋人ごっこしましょう?」
「は?」
「ほら私、このままひとりも恋人無く死ぬのも嫌なのよ。結婚はできないけど恋人ごっこならできるでしょ」
「……しかしお嬢様、お嬢様と契約したとはいえ私は坊ちゃんの執事です。身分が違いますが?」
「それが良いんじゃない。身分違いの恋よ」

セバスチャンは未だによく分からない顔をしていたが「それがお望みなら」と首を縦に振ってくれた。それから2人きりの時は私の事をラストネームで呼ぶのではなく、ファーストネームで呼ぶように彼に言う。

「貴女のような人間はあまり見ませんね。変わっているのか……」
「愚かしい?」
「さぁ、貴女の最期を見守り……判断致しましょう」

手の甲へのキス。「そろそろおやすみ下さい」と毛布を掛けられる。今日は久しぶりに楽しかった。いつもひとりであの広い屋敷にいたから、弟のように思うシエルにも出会えた。そして、悪魔にも。

「また明日ね、セバスチャン」
「おやすみなさいませ、……リサ様」


To be continued…


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