第4話
「……痛いのね、本当に……っ」
滲む涙をセバスチャンの指が拭う。下腹部は感じたことのない鈍痛のような痛みと、微かな快楽。
屋敷に使えていたメイド達が顔を赤らめて話したていたのを思い出す。母は随分前に死んだから、"オトナ"の話を教えてくれるのはメイド達だった。
キスをされて、女の子はただ目を瞑っていれば良いのだとか何だとか言っていた。あとはとても痛いけれど、その後は気持ちよくなるとか。
「目を瞑ってはいけませんよ、リサ様も愉しんで頂きたいんですから」
「……っ、んぅ……」
深い口付け。優しい手で私の身体を撫でて、さらに深く私の中に入ってくる。
「……セバスチャン……」
私の最初で、最後の人。
もうしばらくすれば、私はこのベッドから動けなくなるのだろう。
私は彼の肩に手を伸ばして、セバスチャンに身を任せた。
***
「大丈夫でしたか?」
事が終わって、セバスチャンは蜂蜜入りのホットミルクを私に手渡す。気怠い身体に温かくて甘いミルクが伝う。月は随分高いところに昇っているようで、セバスチャンは蝋燭に火をつける。
セバスチャンが私の乱れた髪を手櫛で整え、優しく髪を撫でてくる。きっちり着こなした燕尾服は、今はシャツを肩に掛けただけの彼。その見慣れない姿に思わず見入ってしまう。
「どうかされましたか?」
「……他の恋人も、こういう事をするのよね」
「おや、私では満足できませんでしたか?」
「ううん、気持ち良かった……と思う」
痛いのはほんの一瞬。たぶん他の男だったらもっと痛いんだろう。この悪魔は人間を忘れられない快楽の渦へと巻き込む術を全て知っている。だから、そんなに辛くなかった。
「もし、私も……」
「はい?」
「結婚とか決まってたら顔も知らない男と身体を重ねることになってたのかしら……?」
「貴族の御令嬢であれば、そうなっていたかもしれませんね」
後ろからセバスチャンが私の肩を抱く。セバスチャンの冷たい唇が背中や肩、そして契約印が刻まれたうなじに落とされる。
「だったら……セバスチャンで私は運が良かった」
「おや、光栄ですね」
「少なくとも私、貴方のこと好きだしね」
セバスチャンにうつ伏せのまま優しく押し倒された。そのまま背中に舌を這わされる。
「……っ、くすぐったい」
「リサ様は可愛らしいお声を出されますね」
「んっ……」
手首を掴まれてベッドに押し付けられて、動く事が出来ない。そのまま舌を這わせられていたが、セバスチャンの動きが止まった。彼の顔が見えないため「どうしたの?」と聞くと彼は口を動かした。
「貴女は、本当に死ぬのですか?」
――どうして、そんなことを聞くのだろう。
悪魔なのだから、私の命の灯がもう消えかかっていることなんて理解しているはずなのに。
どうしてそんな確認をするのだろう。私は暫く口を開く事が出来なかった。
「……死ぬわよ、……貴方の手で」
何故か、熱い涙がベッドに一雫落ちた。
やがて話は種切れになり
空想の泉も涸れはてて
つかれた話し手はひといき入れたく
「あとはこの次」とたのむのだけれど
「いまがこの次!」と
朗らかな声が口々にさけぶ
To be continued…
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