初恋ドロップス



女王陛下主催のフェンシング大会で優勝したお祝いにヴィクトリア女王から会食のお誘いを受けた。初めてあった彼女は女王という立場ながら優しく楽しそうに私の話を聞いて下さった。

「こちらのチャールズも剣術の腕が立つのですよ」

女王から紹介されたのは女王付きの執事だった。真っ白な髪に真っ白な燕尾服。

「初めまして、ボクはチャールズ・グレイ。貴女の剣さばき拝見してたよ」
「それはどうも……ありがとうございます」

グレイ家といえば名門の伯爵家だっただろうか。フェンシングの世界でも名を聞いた事がある。彼の佇まいからも彼のフェンシングの腕の良さが分かるものだ。
女王との会食を終えて、廊下を案内される。大会よりも緊張する会食を終えて一安心していると、前を歩くグレイ伯爵が「ねえ」と話しかけて来た。

「君、東洋人でしょ? 驚いたよ、なんか特別訓練してるの?」
「父から手習いを受けましたので」

「今度手合わせしようよ」と誘われた。かなりの手練れだろうが、私も負ける気はしない。「お受けいたします」と返事をするとにやりと子供のような幼い笑みを彼は浮かべた。

「……ねぇ君さ、婚約者とかいるの?」
「はい?」

グレイ伯爵が立ち止まってこちらへ振り向くので、思わず距離を取る。
いきなり何の質問だろうか。彼は私の前で膝をついて私の手の甲に口付けを落とす。

「ちょっ、何ですか…!」
「ボクと結婚を前提にお付き合いして頂けないかなと」
「えっ!?」
「フェンシング大会で君に一目惚れしたんだよ。どうかな、お互い身分にも壁は無いしさ」

さらりと言ってのけるこの自信は何なのだろう。

「そ、そんなお話……、急に決められません!」
「じゃあ、今日中に君の父上に手紙を送るよ」
「……や、だ、だから……!」

この人は人の話を聞かないな。彼の手を振り解こうとしたが、そのまま柱の影に連れ込まれる。

「……こうしてたら、恋人みたいに見えるかな?」
「女王付きの執事が宮殿で、しかもこんな事して良いんですか?」
「ハハハ、そんな睨まないでよー」

その辺の可愛らしい淑女なら男の力に負けるだろうが、私なら少しは抗える。それを眼で伝えれば、グレイ伯爵はすぐに私から手を離した。

「でも結構ボク本気だよ? そこらにいる着飾った淑女なんて興味なかったしねー」
「……失礼な人ですね」

本当にその日の夕方頃、グレイ伯爵からの手紙が届いた。父様も名門グレイ伯爵家からの手紙に大喜びだった。しかもあの人はこの事を女王陛下にまで伝えたらしく、私の周りは勝手に祝福モードとなったのだ。



「あの時は本当に困りました」
「でも、結局君はボクの婚約者になってくれたじゃん」
「あの後の試合で引き分けにされるんですもの」

本当に人生どうなる事やら分からない。
今じゃ私の目の前で紅茶を飲むこの人に惚れてしまっているのだから。


放つ言葉に花を添えて
(さーて、今日はどこか出かけよっか)
(公園に行きたい、一緒にお散歩したいの)
(ハイハーイ)
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