滑らかな指先にキスをして



瞼を開けると、そこにはアンダーテイカーの綺麗な顔があった。私と目が合ってその顔は嬉しそうに口角を上げる。

「や、おはよー」
「お、おはよう……。何、してるの?」

寝起きの心臓に悪い、彼の綺麗な顔。艶やかな銀髪に、白い肌。髪と同じ色をした長い睫毛と魂の色をした瞳。斜めに走る傷跡は少し痛々しかったけれど、女性と見まうような羨ましいくらいの顔が私を見下ろしていた。

「マヤは寝顔、可愛いよねェー」
「見ないでよ、そんなの……」
「ヒッヒ、か〜わい〜」

隠そうとする私の腕を優しい手付きで退けられる。
恥ずかしいけど、こうして朝にアンダーテイカーから「可愛い」と言われる事は嫌いじゃなかった。

「ふふ」
「ん〜?」

アンダーテイカーの手に私の髪が弄ばれてはさらさらと落ちる。私も彼を真似て、銀色の髪に手を伸ばして指に絡ませる。きらきら輝いていて、美しい銀色だ。
ふと、彼の耳に目が行って、思わず見入る。

「……どうかしたのかい?」
「ピアスって、痛い……?」

アンダーテイカーみたいな大きなピアスはちょっと怖いけど、私だって小さいのくらい開けれるだろうか。少し憧れるのだが、勇気が無い。
彼のピアスをよく見たくて、彼の耳に触れる。やっぱりお洒落に見えるし、お揃いのピアスとかしたら喜んでくれるだろうか。
グイと強く顎を掴まれて、無理矢理彼の眼と視線が合うようにされる。強引な手に少し驚きながら、彼の黄緑色の眼から目が離せない。

「よそ見しない」
「……っ、アンダーテイカー……んぅ」

口を開いたところに彼の唇が塞ぐように落ちる。すぐに熱い舌が差し込まれて、口腔が辿られていく。アンダーテイカーの舌先が、敏感な舌の上を擽って、声が漏れてしまう。

「……ふ、……んっ」

何度も繰り返し口付けをした後、アンダーテイカーは私から顔を離した。

「真っ赤な顔して……、朝から小生を煽っているのかなァ?」
「ち、ちが……っ!」

そんなつもり無いのに。アンダーテイカーの手がふわりと頬を撫でる。キスは唇だけじゃなく、頬や額、瞼にも落とされていく。

「ッ、んんぅ……」
「ねぇ、マヤ」
「……なに?」

――たまにはマヤからもキスを頂戴よ。

「えっ」
「小生にするのは好きじゃないのかなァ〜」
「そ、そんな事ない、……けど」
「じゃあ、ちょ〜だい」

さらに至近距離に彼の顔が迫る。確かに今まで私からというのはあまり無かった。したくない訳じゃないけれど、恥ずかしい。それでも、アンダーテイカーに喜んでもらいたくて、彼の肩に手を伸ばす。
触れるだけのキスを彼に送って、ちらっと彼の表情を見る。ただ、じっと私を見下ろしているだけで何も言わない。何か可笑しかったのか。私が口を開こうとしたとき、彼はニンマリと笑った。

「やっぱり煽ってるなー?」
「そ、そんな事してないっ」

アンダーテイカーの手が私の寝着を捲ろうとお腹に手が当てられたのを察して、私はアンダーテイカーの腕から抜け出す。

「あっ」
「ご、ご飯の用意してくる!」

私は足早に寝室から去って、キッチンに逃げるように入った。膝の力が抜けて床にぺたりと座ってしまう。

「全然慣れない……」

いつまでもドキドキして仕方がない。

「逃げられたか〜……」

一人残されたアンダーテイカーはゴロゴロとベッドを転がる。

「今夜は仕事無いし、夜でいっか。……ヒッヒッヒ」

君の瞳の中には
(マヤ、夜予定無いよねェ?)
(……う、うん)


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