親愛なる君へ




「マヤっ、この後ランチどうスか?」
「えー……、まぁ良いけど」

同じ課の後輩のロナルド・ノックス。ニコニコしながら、資料室へと入ってくる。

「それから仕事場では名前で呼ばないで」
「え〜、良いじゃないスか。誰もいないし、恋人なんだし!」

ロナルドからはかなりの回数、告白をされた。最初の方は後輩だし、チャラい男だという印象しか無くて無視していたのに。
押されに押されて、付き合ったのだ。

「オレ、マジ好きマヤのこと」
「ちょ、ちょっと」

誰もいない事を良いことに後ろから抱き締められる。こうして、毎日のように好きだ好きだと私に言ってくるのだ。

「……なんか」
「え、なんスか?」
「そう毎日言われると本気か分かんなくなる、……チャラ男だし」
「ワーオ、可愛いっ」

――可愛い?

「なんかー、マヤはギャップの塊みたいな感じスよね」
「何それ、きゃっ!」

熱いものが耳を伝って、思わずロナルドから離れる。彼の顔を見ればニヤリと舌を出して笑っていた。この男に耳を舐められたと、その顔を見て分かる。

「仕事してる時とは違う可愛い顔、しますよねェー」
「……バカじゃないの」

「俺はそんな顔をたくさん見れて幸せだー」とまた抱き締められる。頭を撫でられて、まるで子供みたいな扱いだ。

「本気で惚れてますから、大丈夫スよ」
「……そう」

――嬉しいとか、絶対言わない。
その時、資料室の扉が開いて驚いた私はロナルドを突き飛ばした。

「おや、珍しい2人ですね」
「ど、どうもスピアーズ先輩!」

管理課の先輩であるウィリアム・T・スピアーズ先輩が私と倒れたロナルドを不思議そうな眼で見ていた。

「……あなたは何をしているんですか、ここは休憩場所ではありませんよ」
「え……ハハハ……」

ロナルドが私の顔を見る。私は眼で「とりあえず出て行きなさい」と訴えると、ロナルドはフラフラと立ち上がり資料室から出て行った。

「……ハァ」

何故かスピアーズ先輩に溜息を吐かれる。

「……職務の妨げにならないようにお願いしますよ」
「えっ」


そして君が僕を見た
(マヤ、どしたんスか?)
(今日飲みにいくわよ)
(え、マジ!?)


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