白く昇華した想い



葬儀屋長編・番外編

私は店のカウンターにて、アンダーテイカーの帰りを待つ。
今日はバレンタインデー。私の膝の上には、ファントム社の可愛らしいチョコレートと、一輪の白百合。
それからニナさんに協力してもらって新しい洋服を仕立てもらった。瑠璃色の生地に白のレースがあしらわれたかなり少女的なデザインに思えるワンピースだが、ニナさんは「完璧ですわっ!!」と言っていたので、それを信じる事にしよう。髪も綺麗に結い上げてもらったし、アンダーテイカーはびっくりしてくれるだろうか。

「気合い、入れすぎかな……」

でも、せっかく初めてのバレンタインだしアンダーテイカーの記憶に残るものにしたい。ひとりドキドキしていると店の出入り口が開き、彼が帰ってきた。

「ただいま〜」
「あっ、おかえりなさい!」

カウンターから出て、彼の前に立つ。アンダーテイカーは私の見慣れない洋服を見て案の定、目をパチクリした。

「ヒッヒ、どうしたんだい? 随分可愛らしい格好してるじゃないか」
「……っあ、あの……」

―― えっと、なんて言えば良いんだっけ。
私は背中に隠していたチョコレートと白百合を彼に差し出す。

「こ、これ……」

告白するみたいにドキドキしているのは何でだろう。ちらりとアンダーテイカーの顔を見ると、黄緑の瞳を細めていて、私のチョコレートと白百合を受け取ってくれた。

「本命、だよねェ?」
「そりゃ、もちろん……」
「じゃあ愛の告白も小生は欲しいなァ」
「えっ!?」

アンダーテイカーはにやにや笑みを浮かべながら、私の言葉を待っている。改めてとなるとどうしてこんなに緊張するんだろう。

「…好き、です」
「……ヒッヒ……、満足満足」

本当に満足そうな顔をしたアンダーテイカーは後ろから立派な真っ白な薔薇の花束を出して私に差し出す。1輪1輪が美しい綺麗な薔薇の花束はずっしりと重くて、その重さが嬉しかった。

「小生からも」
「わぁ、すごい……!」

アンダーテイカーは棺桶に座ってさっそく、ひとつ私のチョコレートを口に運んでくれた。

「美味しい?」

ファントム社のチョコレートは今日はやはり美味しいと評判と聞く。
アンダーテイカーはもうひとつ口に入れた。そんなに美味しいんだ、なんて期待していたら頭の後ろを持たれてキスをされた。

「……んぅ、!?」

甘いチョコレートが口の中に転がってきた。何をされたのを理解して、顔が熱くなる。アンダーテイカーに「美味しい?」と聞かれて、ただ頷くことしかできない。アンダーテイカーの熱い視線に気付くと、彼は私の姿をジッと見ていた。その視線に、味を認識できなかったけれどチョコレートを飲み込む。

「小生のために可愛い格好までしてくれたワケだ」

子どもを褒めるような優しい手で髪を撫でられる。自分の貯めたお金でこの洋服を作って良かった。ニナさんにもお礼をしなくては。
アンダーテイカーは白百合の香りを堪能していた。アンダーテイカーには白百合が似合うと思って買ったのだが、彼の姿を見て買って良かったと思う。

「で、そのまま引き続き夜も小生にくれる?」
「えっ!? えっと…っ」

そこまで考えてなかった。アンダーテイカーの黄緑色の目ははジッと私の事を見つめてくる。私はしばらく迷った後、「……うん」と言うとアンダーテイカーは綺麗な笑みを作った。

「そうかい、そうかい……ヒッヒ、ぐふふ…ッ」
「……な、なに、もう」
「いや〜?さて、仕事も終えたしあと今日はゆっくりしようか」
「うん!」

まだアンダーテイカーは嬉しそうに笑っていた。でも喜んでくれたのなら良かった。
アンダーテイカーはその日中にチョコレートを全部食べちゃって、白百合はきちんと花瓶に活けてくれた。私も自分の部屋にもらった白薔薇を飾る。

「ん?」

花束の中に小さな可愛らしいカードが入っていることに気づく。"I love you"、その一言だけで私は舞い上がってしまった。


(英国の、しかもあの当時のバレンタインとかホワイトデーとかあんまり無いんだそうです。しかも現在でもホワイトデーは存在せず、バレンタインには男性から女性なんだそう。でもヒロインちゃんはあげました笑)

End.

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