小さな世界の小さな恋
「コハル〜、これもですよ〜」
「あ、はい!」
鈴屋準特等の元で働き始めて1年ほど。
ハードな喰種捜査官の仕事にやっと慣れてきた頃だ。最初は喰種と出くわすと足が震えてしまい、随分と先輩方に迷惑をかけたと思う。最近になってやっとまともに戦うことができるようになった。と言ってもまだまだ、鈴屋さんの援護くらいなもの。
――もっと努力しないと。
「……コハル、最近精が出ますねぇ」
鈴屋準特等がくるくると椅子を回しながら言ってきた。私と少ししか違わないというのに、準特等なんて尊敬する。
しかも可愛いし、強いし……。
「はい、お役に立ちたくて。私、頑張りますね……!」
「ふーん」
彼は抑揚のない返事をしながら、ポケットからお菓子を取り出し食べ始めた。私にもひとつ「オススメあげるです」とニコニコしながら渡してくれた。
鈴屋さんだって一応調査書まとめたりとか、会議があったりして忙しいと思うのに大抵いつもここにいる気がする。もしかしたら全部阿原さんに任せちゃってるとか。あの人は鈴屋さんのお役に立つのが嬉しいみたいだし、それはそれでいいのかな。
「コハルは……」
「?」
鈴屋準特等は椅子をくるくる、足をぶらぶらさせながら少し俯き気味に何か呟いた。
「……コハルは、別に強くなんてならなくていいですよ」
「……鈴屋さん?」
「最前線なんて出られたら困ります。だから、喰種と出くわしたら逃げちゃって下さい」
「……え、あの、それはちょっと……?」
――それは捜査官じゃないんじゃ……。
相変わらず鈴屋さんはブラブラ足を伸ばして動かしている。困って鈴屋さんを見ると、その横顔は少し赤い気がした。
「……す、鈴屋さん……?あの、どういう意味ですか……?」
「だーかーらー」
軽い足取りで私の元へ来ると細い腕でぎゅっと抱き締められた。あったかい頬で頬擦りをされて、彼は照れながら言う。
「ボクが守ります。死んじゃダメですからね」
「……っ」
ドキドキした。
それに上司に可愛いと思ってしまった。
――どうしよう、どうしよう!
「先輩!任せて頂きました、調査書まとまりました!我ながらなかなかの出来栄え、どうぞ!」
バンッと勢いよく阿原さんが部屋に入ってきた。鈴屋さんは慌てて私から離れて、あの大きな目で阿原さんを睨んでいた。
「はんべ〜……」
「は……?な、何か……?」
「今、コハルと」
「うわぁ!な、なんでもないです阿原さん!!」
焦る私を横目に見て、鈴屋さんはイタズラっ子の顔をしてクスリと私を笑った。
もう、私は死ぬわけにはいかなくなってしまったらしい。
そして、しばらく鈴屋さんは私を巡廻の仕事に出させてくれなかった。
恋だと嘲笑えば良いさ
(コハルさん、先ほどは何やら申し訳ないことを…)
(あ、いや…、そんなことは…!)
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